次期首相となる高市早苗自民党総裁の「産みの親」と言っていい麻生太郎党最高顧問(総裁選当時・現副総裁)を、現下の日本史ブームに倣って筆者は当面「令和の後白河上皇」と呼ぶ。平安時代末期の第77代天皇であり、退位後30年近く、源氏と平家を翻弄しながら5代にわたって院政を行ったことで知られる。後白河上皇に喩えるのは褒め過ぎと叱責されそうだが、ご容赦願いたい。自民党の新執行部を理解するキーワードは「院政」である。麻生氏による院政ということだ。高市総裁(無派閥・衆院当選10回=64歳)以下、陣立ては党5役の麻生太郎副総裁(元首相・衆院15回=85歳)、鈴木俊一幹事長(麻生派・11回=72歳)、有村治子総務会長(麻生派・参院当選5回=55歳)、小林鷹之政調会長(旧二階派・衆院5回=50歳)、古屋圭司選対委員長(無派閥・高市系・12回=72歳)である。5人中3人が麻生派だ。党7役(副総裁を除く)で括ると、新藤義孝組織運動本部長(旧茂木派・9回=67歳)、萩生田光一幹事長代行(旧安倍派・7回=62歳)、梶山弘志国対委員長(無派閥・茂木系・9回=69歳)。麻生派と旧茂木派(系)が7人中各々2人ずつ。付言すると、20日に正式発表される高市内閣の官房長官が確定的な木原稔前防衛相(衆院6回=56歳)も旧茂木派だ。
要は、麻生氏が茂木敏充氏とタッグを組んで高市総裁を誕生させたということである。 故に永田町界隈では「麻生高市政権」と呼ばれている。10月4日午後1時に自民党本部で両院議員総会が始まり、総裁選投開票の結果が判明した同2時10分過ぎ、会場最前列の麻生氏は会心の勝利に胸中で「よっし!」と叫んだに違いない。勝負は高市氏が党員・党友票はもとより国会議員票も小泉進次郎農林水産相を上回る圧勝であった。麻生氏に支えられる高市執行部は順風満帆の船出に至るかに見えたが、初っ端から蹴躓いた。26年間続いてきた自公連立政権が存亡の危機に直面している。
トリガーとなったのは、4日午後5時前に高市新総裁が東京・南元町の公明会館を訪れて公明党の斉藤鉄夫代表と会談した際に公明側から示された高市氏の政治姿勢への懸念である。高市・斉藤会談後の記者会見で斉藤氏は具体的に3点を挙げて、「その懸念解消なくして連立はない」と言い切った。具体的懸念とは、①政治とカネ(政治資金問題)、②歴史認識(靖国神社参拝問題)、③外国人との共生(外国人を巡る対策問題)の3つである。7日午後は国会内で自民、公明両党の高市総裁、鈴木幹事長と斉藤代表、西田実仁幹事長が1時間余協議したが物別れとなった。連立継続の合意持ち越しどころか、永田町の一部では公明党の支持母体・創価学会内の「主導権争い」と自民党内の「福岡怨念確執」が絡んでいるのが、事を複雑にしていると指摘される。▶︎
▶︎すなわち、公明党結党の原点である「清潔な政治」「大衆福祉」「平和」への回帰を主張する創価学会女性部と青年部は、同学会「政治部長」と言われる佐藤浩副会長が菅義偉元首相と密接な関係を持ったことや、同学会「九州の実力者」の山本武副理事長・九州長もかつての山崎拓元副総裁から今日の森山裕前幹事長まで親密な関係を築いたことに疑問符をつけているとされる。
こうして見るとよく分かる。麻生氏は首相時代に衆院解散を巡り菅氏と決裂した経緯があり、山崎氏とは地元・福岡で天敵の関係にある。平たく言えば、「公明・学会嫌い」なのだ。 公明・学会側からすれば逆に、麻生氏がまるで「自公連立」を瓦解させるかのように、高市氏に国民民主党(玉木雄一郎代表)接近を進言することに焦りを覚える。事実、朝日新聞(7日付朝刊)は高市氏が玉木氏と5日夜に都内で極秘会談を行っていたとスクープ。絵解きは簡単だ。高市氏は同日夕に党本部4階の総裁室で麻生氏と1時間余協議している。その場で麻生氏から玉木氏との会談はセット済みと知らされたに違いない。麻生氏側近の森英介元法相は長きにわたって党労政局長を務める労政問題のベテランで、連合(芳野友子会長)傘下の産業別労働組合(産別)4団体に太いパイプを持つ。加えて岸田政権時の幹事長だった茂木氏も「自公」よりも「自国(民民主)+α」志向が強い。アルファについては、官僚OBの北神圭朗(財務省)、緒方林太郎(外務省)ら衆院議員4人の「有志の会」に、日本維新の会を離党した3人が合流し計7人の会派となった。狙いは決して悪くない。しかし、国民民主の衆院議席27に足すと34議席になり、自民の現有議席196を加えても過半数233議席に届かない。
結局、自民党の高市体制は公明党を袖にして国民民主党+αと組んでも衆院少数与党を免れない。前門の虎・公明を忌避できない上に、後門の狼・トランプ米大統領が27日に来日する。翌日の日米首脳会談で高市氏に、防衛費増の具体策「思いやり予算の倍増」と日銀の利上げ牽制を止めて「利上げで円高誘導」を強く求めるはずだ。高市氏は、仮に公明との連立問題をクリアできたとしても、次に声高なトランプ氏の法外の要求が控えている。まさに前門の虎、後門の狼。高市氏は事態を打開することができるのだろうか。
