10月末から11月初頭は、高市早苗首相のドナルド・トランプ米大統領との日米首脳会談、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議とアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議出席など1週間に及んだ外交ウィークと、米大リーグのワールドシリーズ(WS)で大谷翔平、山本由伸選手所属のドジャース(ナショナルリーグ)が大激戦の末にブルージェイズ(アメリカンリーグ)を破り、2年連続9度目の制覇を果たすなど大イベントが集中した。その余韻が熱く残るなか、敢えて今週はまったく畑違いのテーマについて言及したい。本稿では、米巨大テック企業を中心に「人工知能(AI)覇権」を巡る信じ難い巨額投資競争が展開されている現在、日本がどのようなポジションにいるのかをリポートしたい。そのために少々、時計の針を巻き戻す。時価総額が5兆㌦(約750兆円)に達した米半導体最大手、エヌビディアのジェイスン・フアン最高経営責任者(CEO)は9月22日、米オープンAIのサム・アルトマンCEOとともに記者会見し、人類の知能を上回る高度な「超知能(AGI)」の実現のためオープンAIに最大1000億㌦(約15兆円)投資すると発表した。そして同社は新たに10 ㌐㍗(㌐は10億)規模のデータセンターを建設する。要は、AGI向けインフラ構築投資だ。このエヌビディアの巨額投資が起点となった「AI覇権」争奪は、そもそも年初にソフトバンクグループ(SBG)、米IT大手オラクル、オープンAIの3社が打ち出した、4年間で5000億㌦(約74兆円)のAI向けインフラ投資計画「スターゲート」が端緒となった。
だが、同計画を主導したSBGの孫正義会長兼社長の構想(総額600兆円と試算したAI収益)が余りに壮大がゆえに、半導体業界や金融市場の反応は「孫一流のハッタリ」という受け止め方が主流であった。それでも孫氏は「スターゲート」計画で米国内5カ所にデータセンターを建設すると説明していた。それが何とエヌビディアのフアン会見の翌23日、SBG・オラクル・オープンAI連合はインフラ投資先として既にテキサス州アビリーンとオハイオ州ローズタウンにそれぞれデータセンターを建設中であり、エヌビディアとも「AI強者連合」を組むオープンAIの対話型「チャットGPT」が高性能モデルに進化するにつれてより多くの学習データが必要になることから、計算量が膨大となりデータセンターの新設が急務となっているとアルトマンCEOは正直に認めた。
それだけではない。資産運用残高1800兆円を誇る世界最大の運用会社、米ブラックロック(ラリー・フィンクCEO)傘下のインフラ投資専門企業グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)主導の米マイクロソフト・アブダビ首長国の投資会社MGX連合は10月下旬に米データセンター事業会社アラインド・データセンターズを400億㌦(約6兆2000億円)で買収した。一方で、資金潤沢なGIPは米電力大手AESの買収交渉も進めている。簡単な事だ。要は、「AI覇権」を握るにはデータセンター事業者と電力大手とのタッグが不可欠ということである。▶︎
▶︎翻って、日本の開発AIはどうなっているのか。経済産業省の商務情報政策局が9月に作成した小冊子『AI産業の競争力強化に向けて』(A4版14頁)に「2023年世界AI活力ランキング」が掲載されている。断トツの1位は、もちろん米国だ。2位中国、3位英国、4位インドと続く。ここまでは分かる。が、5位はアラブ首長国連邦(UAE)が来て、6位フランス、7位韓国、8位ドイツ、そして9位が日本だ。10位はシンガポール。先のアラブ首長国連邦アブダビ首長国のMGXはテクノロジーに特化した投資会社である。この一事を以って、同国が仏独の上を行く理由が分かる。
いずれにしても、わが国はUAEや韓国よりも下位である。遅まきながら日本は、自前のデータや技術を基にした国産AI開発に乗り出したところだ。文化・習慣・制度などの膨大な日本語データを国立研究開発法人・情報通信研究機構(NICT。理事長・徳田英幸慶應大学名誉教授)が、そしてAIの頭脳「大規模言語モデルPLaMo」開発をプリファード・ネットワークス社(PFN。西川徹共同創業者・CEO)が担う。経産省小冊子の「AGI時代に向けたフロンティアAI開発」と題された章に、次のような記述がある。<大規模な計算資源の利用環境の提供や国内外のスター研究者を巻き込みつつ、①国際競争力を持つ汎用言語モデル開発、②国際的に技術成熟度が低い先端分野(マルチモーダル、エージェント、フィジカル、サイエンス、セキュリティ等)の探索的研究開発が必要である> 平たく言えば、日本は世界の趨勢からかなり出遅れているということだ。
事実、朝日新聞(9月13日付)の記事「日本のAI国力、追いつけるか―政府、国内開発支援へ」に紹介された「2024年のAIへの民間投資額ランキング」(米スタンフォード大学調査)によれば、わが国は、1位米国、2位中国、3位英国から遥か下位の14位である。日本は米国の100分の1以下だった。言ってしまえば、ニッポン国は「AI国力発展途上国」ということだ。何事にも勉強家である高市首相はご存知のはずだ。7日からスタートする衆院予算委員会での首相答弁で率直な所感を聞きたい。
