高市早苗首相は1月19日夕方6時からの記者会見で、23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散すると正式表明した。衆院選の日程は1月27日公示・2月8日投開票で実施される。記者団から今衆院選での獲得議席目標・勝敗ラインを聞かれた高市氏は、「与党で過半数を目指す」とした上で、「首相としての進退をかける」と明言した。とんでもない話だ。自民党の現有議席196に日本維新の会の現有議席34を足した230議席は、3議席増で衆院過半数(233)を達成できる。よって実質的には衆院の17常任委員会の委員長を独占できる「安定多数」(243)に届く13議席増を目指すと明言したと受け止める向きが永田町では支配的である。
因みに、自民単独で過半数には37議席増が必要。米ワシントンからの興味深い最新情報がある。米国家安全保障会議(NSC)のカナパシー・アジア担当上級部長や国務省のデソンブレ国務次官補(東アジア太平洋担当)ら対日政策実務責任者は、4月に予定されるトランプ大統領の国賓としての中国訪問に注力するホワイトハウス高官から、3月の高市首相訪米を「レバレッジ」として利用できないかと打診されたというのだ。謎解きはこうである。昨秋11月7日の衆院予算委員会での首相答弁「台湾有事は存立危機事態」が習近平国家主席の逆鱗に触れた日中関係は現在、二進も三進も行かない状態にある。その高市氏率いる自民党が総選挙で勝利して訪米するのか、それとも辛勝後の訪問なのかは天と地ほどの差だ。前者であれば、トランプ氏は勝利の余勢を駆って訪米した高市氏にきちんと箍をはめてあるから懸念無用と習氏に言い募ることができる。最大の関心事である対中交渉にアドバンテージを掌中に収めて臨めるのだ。
詰まるところ、在京米国大使館政治部は衆院解散・総選挙で自民党の勝敗に関する情報収集・分析に全力を挙げている。それだけではない。年初のベネズエラ攻撃で判明したことだが、事前に米中央情報局(CIA)工作員を首都カラカスに派遣し、情報収集を含め諜報活動を行ったように、在京CIA要員も高市=自民党に関する情報収集に傾注している。 そして逐次ホワイトハウスに報告されたことから、早くもトランプ米政権は高市氏率いる与党勝利と確信するに至ったというのだ。
だが、第51回衆院選の予想は「丁半賭博と同じ」との指摘が少なくない。新たに立憲民主党(野田佳彦代表)と公明党(斉藤鉄夫代表)が合流し、結成された「中道改革連合(中道)」の先行きが見通せないのである。野党第1党「中道」が、果たして与党の自民・維新連立にどこまで肉薄できるのかの見立てが難しい。まさに未体験ゾーン突入なのである。 筆者はごく最近、選挙アナリストの三木昌平氏が分析・作成した「固い公明票が自民候補から離脱した場合の4つのケース」のデータに目を通した。そして驚いた。 その結果は、以下の通り。ケース1「固い公明票が自民候補から離脱した場合」:132選挙区のうち29選挙区(22%)で、野党系候補が逆転。ケース2「固い公明票が自民候補から離脱し、相手候補に乗った場合」:同選挙区のうち54選挙区(41%)で、野党系候補が逆転。ケース3「公明比例票が自民候補から離脱した場合」:同選挙区のうち52選挙区(40%)で、野党系候補が逆転。ケース4「公明比例票が自民候補から離脱し、相手候補に乗った場合」:同選挙区のうち86選挙区(65%)で、野党系候補が逆転――。▶︎
▶︎この中からケース4で具体例選挙区を挙げる。一昨年10月総選挙の徳島2区。当選者は山口俊一元内閣府特命相(当選12回・自民党麻生派)、次点が飯泉嘉門前徳島県知事(無所属)。山口票55830-公明比例票18383=37447。対する野党候補票(飯泉票)52151+公明比例票=70534。この数字が意味するのは、衆院議長狙いの山口氏は天地がひっくり返るような事態が出来しても飯泉氏再挑戦に敵わない、ということだ。山口2区の岸信千代前デジタル大臣政務官(2回・自民無派閥)の獲得票104885-公明比例票24750=80135。それに対して、野党候補票(平岡秀夫元衆院議員・立民)103161+公明比例票=127911。公明比例票が離れて野党候補に乗れば、どう足掻いても故安倍晋三元首相の甥・岸氏に勝機がない。この「ケース4」にあるデータを一瞥しただけでも高市・自民党が単独過半数を制することは容易でないことが想像できる。昨年末から準備された「中道」結成には、公明党支持母体の創価学会の佐藤浩副会長が深く関与したとされる。「自民にはお仕置きをしなければならない」と語ったというのである。
一方、高市首相が通常国会召集冒頭の衆院解散を決断する要因の一つとして挙げられる「元宿調査」にも言及すべきだろう。実物を現認した選挙関係者はいないが、元宿仁(もとじゅくひとし)自民党本部事務総長が高市官邸から内々の要請を受けて実施した自民党情勢調査(1月5~7日)とされる調査結果(自民199→260、維新34→38、国民27→35、参政党3→17、日本保守党3→5、立民148→70、公明24→18、れいわ9→7、共産8→5)のことだ。永田町界隈に出回ったのは12日午前。読売新聞(10日付朝刊)が1月23日の召集冒頭解散をスクープした2日後だ。解散ムードを加速させる効果は抜群。こうしたことからも、「オールドメディア」と揶揄される主要報道各社幹部の選挙予測はほぼ一致する。すなわち、自民党が単独過半数(233)はもとより、安定多数(243)を上回る可能性が高いというのだ。加えてにわかに信じ難いが、維新を合わせて絶対安定多数(261)に届くこともあるとの見方を披歴する向きもある。千葉商科大学で実施された1、2年生の3クラス279人のアンケート調査によると、来る総選挙で投票に「絶対行く」「多分行く」「多分行かない」「絶対行かない」の4択のうちで「絶対」と「多分」合わせて87%が投票に行くと回答している。ネット世代の若者の投票率はかなり高くなるのは必定だ。彼らが高市氏支持者であることは明白であるが、必ずしも自民支持者ではない。これが、総選挙の先行きが読めない最大の理由である。
最後にもうひとつ。高市・自民にとって厳しいのが、「中道」支援を組織決定した創価学会が福岡と大阪両選挙区で自民候補落選に総力を挙げることだ。本気である。来週27日の公示を前に、苛烈な選挙戦はすでに始まっている。
