米首都ワシントンDC北西部のポトマック川の河岸沿いにあるジョージタウン。高級レストラン、バーやファッショナブルな高級ショップが並び、活気に満ちたナイトライフが楽しめる地区だ。そのクラブは、ジョージタウン・パーク裏手にビリヤードバー「Clubhouse」があった地下空間を改造した店で、昨年4月下旬にオープンした超限定的な会員制「Executive Branch」である。米政治メディア「ポリティコ(Politico)」が、同年4月26日夜、DC市内のウィラード・インターコンチネンタルホテルでドナルド・トランプJr.(トランプ大統領の長男)、投資銀行家で1789 Capital創業者のオミード・マリク、ホワイトハウス(WH)AI(人工知能)・暗号資産担当顧問のデイビッド・サックス(元ペイ・パル最高執行責任者)の3氏共同主催のパーティーの席で、同クラブ誕生が明かされたとスクープした。
一言でいえば、MAGA(「アメリカ・ファースト」のコアなトランプ支持者)のための会員制クラブ(厳格な入会要件と入会金50万㌦超)で、企業の経営幹部(C-suite層)がトランプ大統領の顧問や閣僚とメディアやロビイストの目を気にせずに交流できる環境を確保することで、同所を拠点にワシントン社交界を再構築する意図があるという。2月28日午前(現地時間)、米国とイスラエルの合同作戦でイランを軍事攻撃し、同国の最高指導者ハメネイ師を始め、精鋭軍事組織「革命防衛隊」のモハンマド・パクプル司令官、最高指導者上級顧問で国防評議会事務局長のアリ・シャムハニ氏のほか、ナシルザデ国防相、ムサビ軍参謀総長らも会議中に弾道ミサイル攻撃で殺害された。米国、イスラエルによるハメネイ執行部排除作戦は今後1カ月余継続すると伝えられる中で、なぜワシントンにある高級会員制クラブ「Executive Branch」など“軟派な”テーマを取り上げるのかとおしかりを受けそうだが、暫く我慢していただく。実は関係がある。件のクラブ創設メンバーであり、オーナーでもある人物名にアレックス&ザック・ウィトコフ氏の名前がある。まさにイラン攻撃2日前の26日、スイス・ジュネーブでイランの核開発を巡り、仲介者のオマーンのブサイディ外相と米国のスティーブ・ウィトコフ中東担当特使、大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー元上級顧問が会談している。この核協議は、イラン攻撃Xデーまでの交渉引き伸ばしに使われたとされる。弁護士であり「不動産王」であるS・ウィトコフ氏の息子が、クラブ創設メンバーのアレックス&ザック兄弟なのだ。これだけではない。冒頭に挙げたWH特別顧問のデイビッド・サックス氏は、最近、トランプ大統領とよりを戻した、あのEV(電気自動車)「テスラ」やスペースXのオーナーであり、PayPalやOpenAIの巨額出資者である大富豪イーロン・マスク氏と極めて似たキャリアの持ち主だ。同世代で同じ南アフリカ出身。米スタンフォード大学卒業、シカゴ大学ロースクール修了。今やシリコンバレーの伝道師とされるピーター・ティール氏の下で、PayPalの最高執行責任者(COO)を務め、その後マイクロソフト社が提供する企業・組織向けの「社内SNS」Yammerの創業者CEO。ティール氏の推し活でパランティア・テクノロジー、Uber、Airbnb、スペースXへの初期投資者でもある。▶︎
▶︎こうして見てみると分かるように、トランプJr.、サックス、マリク氏らはJ・D・バンス副大統領と特に緊密な人物、あるいは熱心な支援者でもある。昨年12月にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪米し、南部フロリダ州パームビーチの大統領私邸「マーラ・ア・ラゴ」でドナルド・トランプ氏に同年6月のイラン核施設攻撃に続き、26年5月頃の弾道ミサイル施設攻撃第2弾を提起している。そのフォローのために1月にはイスラエル対外情報機関モサドのダビデ・バルネア長官が数回ワシントンを訪れてジョン・ラトクリフ米CIA長官と協議したとされる。米メディアが報じている。筆者が注目するのは、報道されていないが、DCでの噂として耳に届いた6月に退任予定のバルネア氏の後任、首相軍事秘書官のロマン・ゴフマン少将も極秘裏にDC入りし、バージニア州ラングレーのCIA本部で工作本部(DO:Directorate of Operations)と情報本部(DI:Directorate of Intelligence)幹部と綿密な協議を行っているということだ。米中央情報局(CIA)、米国防情報局(DIA)とイスラエル対外情報機関(Mossad)、イスラエル軍参謀本部諜報局(Aman)の米国、イスラエル両国情報機関の連携で実行されたのである。そしてネタニヤフ氏自身が2月11日にWHを訪れてトランプ氏との最終詰めを行ったのも間違いない。
ここでもう一度「Executive Branch」に戻る。豪華な階段を降りると黒くて分厚い二重扉が待ち受ける。そこまでにビジターは2回、セキュリティチェックを受ける。扉が開くとチェッカー柄の大理石床がある。内装はタイの保養地プーケット発祥のラグジュアリー・ホテルAmanに着想を得たエキゾチックな内装だ(この状況描写はNYT紙報道を参照)。ホテルAmanとは…イスラエルの軍事諜報局の通称と同じ(苦笑)。このチェックが厳しいクラブは人目を憚る人たちには好評で、現在は入会申請のウエイティング・リストに名前を連ねる待ち人が多い。聞こえて来るところでは上限200人とされる。在米イスラエル大使館にはモサドやアマン要員が相当数派遣されている。日常業務は、米議会関係者、メディア・ジャーリズム従事者、陸海空軍・海兵隊関係者、IT・AI先端企業経営者・研究者、大学・シンクタンクの教授・研究員、そして在米ユダヤ人有力者などとの交流と称する情報収集活動だ。米側対象者の中でビジネス成功者はDC市内の会員制メトロポリタン・クラブやDC郊外のメリーランド州の高級会員制チェビー・チェイス・クラブに入会する。
だが、秘密話は出来ない。メディア関係者も出入りしていて、面が割れてしまうからだ。そこで浮上したのが、ある意味で「トランプの館」と言っていい件の限定会員制クラブであって、保守派富裕層が大挙メンバー入りを望んでいるという。こうなるとスパイ映画もどきだ。そう、「Executive Branch」は、そうした彼ら彼女らの「仕事場」でもある。最後は「オチ」で締めたい。かつてトランプ氏支持有力者として知られる元米FOXテレビの人気アンカーマン、保守論客タッカー・カールソン氏はイラン軍事攻撃直後の28日午後(米東部時間)、米3大ネットワークABCテレビのインタビューでイラン攻撃について「完全な嫌悪すべき、邪悪なもの」と指弾した。カールソン氏が設立したデジタルメディア企業「Last Country」の最大出資者は、実は1789 Capital創業者マリク氏である。このカールソン・コメントで出資引き上げの“騒ぎ”となったとは寡聞にして聞いていない。果たしてその辺の折り合いはつくのか、筆者の手元に最新情報はまだ届いていない。
