高市早苗首相の訪米(3月18~21日)でドナルド・トランプ大統領との日米首脳会談(米東部時間19日午前11時37分から1時間33分間、ホワイトハウスの大統領執務室で行われた)を通じて、新たに分かったことがある。 高市氏が事あるごとに「安倍首相の政策を継承・発展させるのが私の使命である」と述べるのには、それなりの理由と根拠があると、今回、筆者は改めて思い知った。
いきなりだが、先ずはほぼ20年前の第1次安倍晋三政権時代に想いを馳せていただく。筆者が取り上げるのは2007年当時の経済産業省・資源エネルギー庁の陣容である。経済産業省:甘利明大臣以下、北畑隆生経産事務次官(1972年旧通産省入省)、飯田祐二大臣官房秘書課人事企画官(後に事務次官・現首相政務秘書官=88年)、資源エネルギー庁:望月晴文長官(後に事務次官・73年)、嶋田隆資源・燃料部政策課長(後に事務次官・82年)、保坂伸同部石油・天然ガス課長(後にエネ庁長官・87年)、高田修三同部石油精製備蓄課長(86年)、柳瀬唯夫電力・ガス事業部原子力政策課長(後に経済産業政策局長・84年)、香山弘文同部核燃料サイクル産業課長補佐(後に官房政策統括調整官・現首相事務秘書官=95年)―― 次に、前年9月に発足した安倍内閣下の首相官邸ラインナップと閣僚をみる。首相政務・事務秘書官5人のうちの1人が経産省から出向した今井尚哉氏(現内閣官房参与・82年)である。ちなみに今井氏は06年7月人事で日本機械輸出組合ブラッセル事務所長からエネ庁資源・燃料部政策課長に転じたばかりだった。つまり07年当時の当該課長である嶋田氏の前任者が同期の今井氏という因縁がある。その今井氏が官邸に引き上げたのが、米国留学から戻ったばかりの佐伯耕三首相事務秘書官補(後に首相事務秘書官・現内閣広報官=98年)。世耕弘成首相補佐官(第3次政権で経産相・現衆院議員=元参院自民党幹事長)も安倍官邸にいた。
さて、登場人物は概ね出揃ったので本題に入る。今回の高市首相訪米でプロ筋が高く評価した対米協力プロジェクトの「目玉」の一つが、米アラスカ州原油(産出量47万バレル/日)の増産分を日本に運び、国内の石油タンクに貯蔵する日米共同備蓄構想である。07年当時の嶋田・高田両エネ庁課長コンビは、日本とサウジアラビア国営石油会社アラムコとの間で沖縄県うるま市の石油タンクを活用したサウジ原油の共同備蓄を実現した。今流に言えば、産油国との戦略的なパートナーシップ構築を目指すために、産油国サウジアラビアと連携するプロジェクトとしての日本国内の石油タンク利用の共同備蓄構想だ。この産油国との共同備蓄計画はその後も、アラブ首長国連邦(UAE)と鹿児島県喜入町、クウェートと新潟県聖籠町の石油貯蔵基地で共同備蓄(各7日分)を継承し、今日に至る。これまで中東原油に限定されていたが、このアラスカ州原油の共同備蓄案は原油増産規模にもよるが、実現すれば供給元の多角化という経済安全保障の観点からも極めて重要である。その理由を詳述する。ペルシャ湾ホルムズ海峡を通過しないで済むアラスカ州産出原油の北太平洋ルートで供給網を確保することは、経済安全保障上計り知れないメリットがある。▶︎
▶︎もちろん、ホルムズ海峡のような輸送上のチョークポイント(要衝)もない北太平洋ルートであるが、ロシア東部のカムチャツカ半島沖近海はロシア原潜のホームグラウンドとの指摘も承知する。それでもホルムズ海峡封鎖によって日本への原油供給が脅かされて、高市政権が26日から国内11カ所で国家備蓄の放出を余儀なくされたように、この「産油国共同備蓄」の枠組があることで産油国とのコミュニケーションがスムーズになり、国内にパニックが出来しても抑止する「防波堤」として機能する。言わば、日本にとって「地政学的保険」の意味合いが強まっている。
一方、供給する米国の利点は、言わずもがなだが現状で日産47万バレルのアラスカ州原油増産のためのインフラ整備全般(北極海側プルドーベイ油田から州最大都市アンカレジ東のバルディーズ港までのパイプライン増設、増産分を日本に輸送する同港湾施設の再構築のための建設など)に日本が深くコミットすることだ。パイプライン新設は日本製鉄が142億ドル(約2兆円)で買収したUSスチールが製造する。港湾施設周りのインフラ整備は日本の日揮や千代田化工などプラントメーカーが担う。この日米ウィンウィンのモデルケースを、米側でいち早く評価したのがハワード・ラトニック商務長官である。元キャンター・フィッツジェラルド証券CEOの同氏は昨年9月、米CNBCのインタビューで日米関税交渉を通じて合意した日本の対米直接投資5500億ドル(約87兆円)について、以下のように説明していた。「日本は米国のために5500億ドルの投資を約束した。その使い道はアラスカのパイプライン、原子力発電所の建設、送電網、データセンターである。日本が投資を回収するまで利益配分は50:50であり、日本が5500億ドルを回収するときには米国も5500億ドルを得ている。この合意で日本の納税者が損失を被ることはありません。なぜならば、これは日本にとって国家安全保障と経済安全保障のための支出だからです」 ウォール・ストリート出身のラトニック氏の説明には「無理筋」があると言いたいが、ここでは措く。
それよりも見逃せないのは昨秋段階で、トランプ政権内にジャパンマネーでアラスカ州原油の対日供給及び日米両国による備蓄構想の「萌芽」があったことを、このラトニック・インタビューは示していることだ。 筆者の推論は、高市官邸がかつて資源エネルギー庁の政策立案者が実現した日本・サウジ両国による共同備蓄政策の現代版としてアラスカ州原油の日米共同備蓄案をラトニック商務長官とクリス・ライト・エネルギー長官に提示し、最終的にトランプ大統領の賛同を得たというものである。大仰に言えば、こうして外交史は作られるものなのだ。
