筆者は毎週末の土、日曜のいずれか、ないしはその両日の午前8時半過ぎから2時間弱のウォーキング(途中のコーヒータイムを含む)をしている。この日はウォーキング途上で立ち寄った東京・JR御茶ノ水駅2階の猿田彦珈琲店でマグカップを手に、スマホのアプリで英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の次にロイター通信をチェックしたら、速報見出し「Trump safe after shooting at White House correspondents dinner, suspect in custody」が飛び込んで来た。ドナルド・トランプ大統領を標的とした銃撃事件は、4月25日午後8時35分(米東部時間・日本時間26日午前9時35分)、米首都ワシントンD.C.の中心地域デュポン・サークル近くのワシントン・ヒルトン・ホテルの(コンコース・レベル/地下1階)メインとなるボールルーム(International Ballroom)で出来した。ちなみにホワイトハウス(WH)から至近距離(約1.6㌔)の同ホテルに、筆者は2018年10月のワシントン出張時に2泊している。ホワイトハウス記者会(WHCA。正式名称「ホワイトハウス特派員協会」会長=ジャン・ウェイジアCBSニュースWH担当上席特派員)が年一回主催する晩餐会(男性ブラックタイの正装、女性ロング丈のイブニングドレス着用)に出席したゲストは約2600人、大盛況だった。緊迫するイラン情勢、取り分けホルムズ海峡封鎖を巡り世界の耳目が集中する中で、トランプ氏の出席は直前まで危ぶまれていた。それでも記者嫌いの上に気まぐれのトランプ氏が第1期、2期政権を通じて初めてWHCA主催の晩餐会出席が確定したことから、同氏のスピーチに関心が高まっていた。会場のひな壇はトランプ氏夫妻の両隣をキャロライン・レビット大統領報道官とウェイジア会長、J・D・バンス副大統領の右隣が副会長のジャスティン・シンク=ブルームバーグ通信WH特派員、左隣はジャッキー・ハインリッヒFOXニュースWH上席級特派員という席次。会場に設営された258余卓の各テーブル(8人掛け)にはマルコ・ルビオ国務長官夫妻、ピート・ヘグセス国防長官夫妻、スコット・ベッセント財務長官、ロバート・ケネディJr保健福祉長官夫妻など主要閣僚や、WH幹部のダン・スカビノ大統領次席補佐官兼人事局長、スティーブン・チャン広報局長などトランプ政権のオールスターキャストの陣立てだった。それが4発の銃声で吹っ飛んでしまった。幸い死傷者ゼロ。
だが、米紙ワシントン・ポスト(WP。26日付電子版)によれば、警備態勢に詳しい当局者の話として、トランプ政権は大統領と多くの閣僚が出席していたにもかかわらず、WH記者会主催晩餐会について、政権高官が集まる他の会合よりも低いレベルの警備体制を敷いていたというのだ。警備体制の不備を指摘したのはWP紙だけではない。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙(同)は、目撃者の証言として、会場出入口の外の廊下に設置された手荷物検査場付近で拘束される直前、コール・アレン容疑者が警備当局の厳重な警戒下にバッグから武器のようなものを取り出して、組み立てていたと報じた。奇しくもWP、NYTともにトランプ氏が「フェイクニュース」と忌避するリベラル系新聞である。こうした報道をも勘案した上で今回の事件で看過できないのは、銃撃事件発生2時間後にトランプ大統領がWHで急きょ開いた記者会見で言及した内容である。記者団から「大統領、容疑者の標的は貴方だったと思いますか?」と質問されて、次のように答えた。「暗殺されたエイブラハム・リンカーン大統領もそうだったが、多くのことを成し遂げて来た人々こそ標的になると言わざるを得ない。私もこれまでこの国のため、国民のために多くのことを実現した。その意味で標的にされたのではないか」――。
筆者は、謀略史観論者ではない。この銃撃事件が仕組まれたと言うつもりは全くない。ただ、24年7月のペンシルベニア州バトラー郊外で行われた選挙集会中にトランプ候補(当時)がライフル銃で銃撃された暗殺未遂事件後、トランプ氏は「強い指導者」イメージ像を定着させて支持率急増に繋がった経緯を想起するからだ。さらにトランプ大統領は、同会見でWH主催晩餐会を30日内に実現するとアピールすることを忘れなかったのである。さて、今回の大統領出席晩餐会での銃撃事件のテレビ映像を観たり、ニュース記事の詳報を読んだりしていると、自身の関心事がどうしても「外」から「内」に向かうのは否めない。▶︎
▶︎そこでまず、目を転じたのがほぼ同時期の4月23日に東京・永田町の自民党本部で行われた3つの会合である。時間を追って紹介すると、同日午前9時30分から9階901号室で開かれた党外交部会(部会長・高木啓衆院議員・当選4回=元都議)主催の「イラン情勢に関する関係合同会議」。続く2つ目が、同午後3時30分から1階101号室で開催された経済安全保障推進本部(本部長・大野敬太郎元総務副会長・6回=元富士通エンジニア)主催の「経済安全保障推進本部提言案について」。3つ目が、同午後4時30分から7階701号室での安全保障調査会(会長・浜田靖一前衆院議運委員長・元防衛相=12回)主催の「安全保障調査会勉強会/これまでの議論における主要な項目について(論点整理②)」である。
ご時勢とは言え、自民党で外交・経済安全保障政策に関心を抱く衆参院議員がかくも多いことに少なからずの驚きを覚えた。と同時に、これらの「勉強会」に駆り出される霞が関の当該省庁の官僚群には、正直ベースで心からご苦労様と申し上げる。 上述の3会合のうちでも取り分け、筆者が注目したのは将来のエース視される小林鷹之政務調査会長(元経済安全保障相・6回=財務省出身)が冒頭挨拶を行った「イラン情勢に関する関係合同会議」で、「エネルギー及び重要物資の安定供給確保及び海上輸送途絶対策に向けた緊急提言」についての協議であった。その議事録に次のような件がある。<最も重要なことは、停戦が維持され、ホルムズ海峡の航行の安全確保を含む、事態の鎮静化が実際に図られることであり、……事態の鎮静化の後、すなわち海上封鎖が解除された後に、ホルムズ海峡から実際に原油等が供給される量が元に戻るまでの期間を最大限短縮できるよう、必要な措置を検討しておく必要がある。また、我が国による事態解決に向けた貢献をさらに具体化していく必要があり、正式停戦成立後もホルムズ海峡の自由航行に障害がある場合などには、掃海艇等の派遣を検討すべきである>。このパラグラフの前段に<この点、自民党としても、必要な議員外交を展開していく決意である>と記述されている。同会議には小林政調会長以外に山田賢司経産副大臣(メガバンク出身・6回=麻生派)、島田智明外務大臣政務官(2回・元河内長野市長・元神戸大学大学院准教授)も出席している。
最後に、米カリフォルニア大学バークレー校フェローも務めた大野氏は提言案を取りまとめ後、平河クラブ記者団に対し機雷掃海行動への参加ついて「ホルムズ海峡は公共財という認識に基づいて国際社会と共に貢献をしていく」と、事実上の決意表明を行った。在京米国大使館政務班要員はこの「大野表明」を正しく国務省だけでなく米国家安全保障会議(NSC)にも報告しているのかどうかを案じていた。少々の不安を感じるのは、先述の晩餐会銃撃事件に接したからに違いない。日本側がホルムズ海峡の開放に向けて強い決意を表明したにもかかわらず、暗殺未遂事件に加えて、11月の中間選挙を控え、当のトランプ大統領自身がホルムズ海峡から関心を失ってしまうかもしれないからだ……。
