7月17~20日、「世界人工知能大会(WAIC)2026」が中国の上海市の上海世博センター・世博展覧館、張江科学会堂、西岸国際コンベンションセンターの3エリアで開かれた。習近平国家主席(中国共産党総書)は初日の開幕式で、こう言い放った。「責任ある大国として、中国はAI分野において一貫して国際公共財の提供者として尽力している。……国際協力を広く進め、グローバルサウス(新興・途上国)の国々の能力構築を支え、『知能の格差』を埋めなければならない」前日の16日、これまで中国が提唱してきた「世界AI協力機構(WAICO)」の設立を宣言、東南アジア諸国連合(ASEAN)、新興国グループ(BRICS)加盟各国と調印式が行われた。同式典にはロシア、ブラジル、インドネシア、パキスタン、カザフスタンなど29カ国の代表が協定に署名した。主たるメンバーはもちろん、習主席自身が推進する広域経済圏構想「一帯一路」に参加する国々である。ただ、看過すべきではないのは、調印式や開幕式に国際機関・国連のアントニオ・グテーレス事務総長(ポルトガル元首相)が出席し、ASEAN有力国で「一帯一路」構想に積極的なタイのアヌティン・チャーンウィーラクン首相が登壇・演説したことだ。何が言いたいのか――。同大会を取材・報道した朝日新聞(21日付朝刊)は1、3両面で大きく報道したが、そのなかで「中国AI 国を挙げ強化―『世界大会』開きアピール、盛んな社会実装→豊富なデータ→性能向上」の見出しを掲げた記事(3面)のリードに、次のように記述されている。<人工知能(AI)開発をリードしてきた米国を猛烈な勢いで追い上げ、AIにおける中国の主導的な地位を世界に広げる――。20日まで中国・上海で開かれた「世界AI大会」は、そんな中国の意思を内外に示す場となった> 平たく言えば、中国のAI開発は最先端技術力が、例えば新興AI月之暗面(ムーンショットAI)が開発した最新モデル「Kimi K3」は、米アンソロピックが開発した最新高性能AI「クロード・フェイブル(Fable)5」や米オープンAIの最上位エージェントモデル「GPT-5.6」などの最先端モデルと性能比較しても決して劣っていないという調査結果もある。
実際、そうしたニュースが伝わった17日のニューヨーク株式市場は主要テクノロジー銘柄が急落し、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数も続落した。これだけではなかった。中国ネット通販最大手のアリババ(阿里巴巴集団)は続く19日、AI新モデル「千問(Qwen)3.8-MAX」を近く正式公開すると表明。と同時にSNSへの投稿で「恐らく(米アンソロピックの)『クロード・フェイブル5』に次ぐ性能だ」とアピールした。翌20日の香港株式市場でアリババ株は17日の終値4%高となった。
注目すべきは、中国最大のECサイト淘宝網(タオバオ)、電子決済の支付宝(アリペイ)なども傘下に収めるアリババが、上海での「世界AI大会」会場で自社開発のAI半導体、計算基盤となるクラウドサービスからAI新モデルQwenやAIを使ったアプリを展示し、自らがAI周辺ビジネスの総合力を持つ企業グループであることを誇示したことである。▶︎
▶︎さらに技術情報を公開する「オープンソース」方式で提供すると発表した。それは、まさに中国が今や米国に迫る「AI大国」であることを世界に印象づけた。最先端国である米国が各領域での分業で今日の独占的な地位を築いたのに対し、アリババ集団は開発を一手に手がけることで総合力を生かしてフロントランナーたる米国をキャッチアップするというわけだ。
要は、最先端モデルは米中両国に集約されるということである。米テック銘柄の株価下落だけではない。米側は中国との「宇宙覇権」抗争でも後れを取ると指摘されており、平静でいられるはずがない。加えて、AIが28年米大統領選を決定づける最重要イシューとなるとの見方が浮上しているのだ。11月の米中間選挙戦に向けて、巨大なAIデータセンター建設が有権者の中で関心を抱く向きが増えているとされる「アンチAI感情」のシンボルになりつつある。ファクトベースというよりも感情論が大勢を占めるとされるが、「AIが雇用を奪う」という主張は民主党支持層だけではなく米国民に急速に浸透している。奇しくも21日に日経新聞が主催した「GDS2026世界デジタルサミット」で講演した<哲学者で独ボン学のマルクス・ガブリエル教授はAIと人間との共生モデルが求められているとし、「日本はこの分野で先陣を切ってイノベーションを起こし、新しい市場を展開できる」と話した>(同紙21日付夕刊)とあるが、実際にはそれほど「綺麗ごと」ではない。
なぜ、そう言えるのか。巨大なデータセンターは大量な電力を消費し、電力価格を押し上げていることから、すでに有権者の最大の不満である物価高騰に直接結びつく。それゆえに、データセンターはAIに対する有権者の反発の標的となり、データセンター建設はAIに関する最初の政策的な争点になっている。そして反対運動は拡大が不可避である。ジョシュ・ホーリー上院議員(共和党・ミズーリ州選出)とマーク・ワーナー上院議員(民主党・バージニア州選出)の2人は、AI導入による雇用削減の現状について、企業が四半期ごとに労働省へ開示することを義務付ける法案を提出した。トランプ第1期政権時の首席戦略官だったスティーブン・バノン氏は5月、トランプ支持者60人超とともにホワイトハウス(WH)に対し、AIの公開前に政府による審査を義務付けるよう求めた。同氏は、現政権の規制緩和加速政策は労働者が恩恵を受けないどころか雇用破壊というハイテクのコスト負担を強いられると、WHの同政策担当高官を強く批判する。このAI問題もまた、共和、民主党支持層を問わず米国内の分断を加速させる悩ましい難題である。しかしトランプ政権の対中政策は、目先の中間選挙と関係なく、中長期的な米国家戦略からしても、これまでにも指摘したように「コントロール可能な米中冷戦(Controllable US CHINA Cold War)体制」のみが「世界を救う」唯一無二の選択なのだ。そのためには、ドナルド・トランプ氏に自重してもらわなければならない。もしそれができれば、トランプ氏はまさに「世界の救世主」になれるのだが……。
