ドナルド・トランプ米大統領は9月24日夜(現地時間)、ホワイトハウス(WH)で中国の習近平国家主席を歓迎する国賓晩餐会を開催した。
主催者のトランプ大統領夫妻以下、出席者は習近平国家主席と彭麗媛夫人、J・D・バンス副大統領夫妻のほか、米中両国の政府関係者や米テクノロジー、金融、国防・宇宙業界ら民間企業トップ130人余。筆者の手元に同晩餐会の出席者リストがある。この米側出席者をつぶさにチェックすると、実に興味深い事実(ファクト)に気づく。さらに出席者の人選を自ら行ったトランプ氏の意図も透けて見える。
先ず、招待された主要企業トップから(括弧内は企業名)。テクノロジー業界:ジェンスン・フアンと配偶者(エヌビディア)、マーク・ザッカーバーグ(メタ)、ティム・クック(アップル)、サム・アルトマン(オープンAI)、セルゲイ・ブリンとパートナー(グーグル)、リサ・スーと配偶者(AMD)。金融業界:ジョン・ロジャース(ゴールド・マン・サックス)、ラリー・フィンク(ブラックロック)、スティーブン・シュワルツマン(ブラックストーン)、ジェイミー・ダイモン(JPモルガン・チェース)、ジェーン・フレイザー(シティ・グループ)。防衛・宇宙業界:イーロン・マスク(スペースX)、ケリー・オルトバーグ(ボーイング)、ジム・タイクレット(ロッキード・マーティン)、ラリー・カルプ(GEエアロスペース)。その他業界:ジェフ・ベゾスと配偶者(アマゾン)、ダレン・ウッズと配偶者(エクソンモービル)、メアリー・バーラと配偶者(GM)、デービッド・エリソンと配偶者(パラマウント・スカイダンス)、ベルナール・アルノーと息子(LVMH)、ミリアム・アデルソン(ラスベガス・サンズ)。この企業・トップ名に目を通して直ぐに気づいた。今夏以降、人工知能(AI)業界のけん引役であり、かつ最先端AIの開発を減速するべきと呼びかけるアンソロピック創業者のダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)の名前が無かったのだ。筆者は瞬時、やはりトランプ氏の機嫌を損ねたからと受け止めた。
ところが、米ニュースサイト「アクシオス」は3日後の27日午前11時過ぎ、当日夜にアモデイ氏がトランプ氏に招かれてWHで夕食を共にするとスクープ配信した。同サイトによると、マイク・ジョンソン下院議長がAI開発規制に強く反発する大統領を説得して実現したという。さすがのトランプ氏も米中AI開発競争の真只中に同業界との諍いは得策ではないと柔軟姿勢にシフトしたようだ。晩餐会出席者リストで目に留まったのは<米政府関係者・その他>に記載された名前である。スコット・ベッセント財務長官に続く<ベッセント氏配偶者のジョン・フリーマン氏>の記述だ。ベッセント氏が同性婚者であることを隠さないことは承知していた。だが、大統領主催の公式晩餐会に同伴するとは意外だった。ちなみに米国務省で辣腕外交官として名高い、ジェイコブ・ヘルバーグ国務次官(経済・エネルギー担当)も同性婚者。
トランプ氏を支える「MAGA(米国を再び偉大に)派」と聖書を絶対視するキリスト教「福音派」は、言わば共闘関係にある。その白人福音派の過半がトランプ氏やMAGA運動の熱狂的な支持者であり、伝統的な家族観や中絶反対など保守的な政策で深く結びついている。言うまでもなく、「同性愛」「同性婚」を認めない。▶︎
▶︎しかしトランプ氏は、自分にとって必要であると判断すれば、それこそ「戒律」より「能力」を優先するのである。
次は、トランプ・ファミリーの出席者。リストに記載されている順にイヴァンカ・トランプ(最初の妻との長女)、エリック・トランプ(同次男)、ララ・トランプ(次男の妻)、ティファニー・トランプ(2番目の妻との次女)、マイケル・ボウロス(次女の主人)、ビクトル・クナウス(メラニア夫人の父)、アラベラ・クシュナー(イヴァンカ・クシュナー夫妻の長女)。この面子からトランプ氏の気配りがよく見て取れる。本稿で取り上げたかったのは、実は24日午前の習主席歓迎式典後にWHで行われたトランプ大統領スピーチの内容である。同大統領は中国を「第2次世界大戦時の同盟国」と述べた。我が国主要メディアは、「歴史に言及 不穏な呼応―米中首脳会談、トランプ氏『中国、大戦の同盟国』習氏『日本の軍国主義へ共闘』」(日本経済新聞26日付朝刊)、「米中、『歴史』で友好演出―トランプ氏『大戦時の同盟国』習氏に呼応―AI開発抑制には言及なし」(朝日新聞同日付朝刊)の大見出しを掲げて、大々的に報じた。
トランプ氏が演説で、当時、日本軍と戦った米国人義勇兵「フライング・タイガース」を持ち出し、「あの戦争に勝つために力を合わせたように、習主席と私は、今後も協力し続ける」と語ったことに両紙は言及した。そして「朝日」記事は、<トランプ氏の発言は中国によって「新型軍国主義」の文脈で利用されるリスクがあり、外務省幹部は「米国側から持ち出したのは心地よくはなかった」との不満の声を漏らした>で、終わっている。
では、本当にトランプ氏は5月に習氏と合意に達した「建設的な戦略的安定」実現に向けて、中国と11月に新たな貿易協議とAI対話のための枠組を作るため、日本には少々泥を被ってもらわなければと「米中同盟」を持ち出したのだろうか。朝日記事にある「外務省幹部」とは異なる同省幹部に尋ねたところ、そもそも米国政府は中国を「同盟国」(allies)と呼んだのはビル・クリントン大統領の民主党政権時代だった、との答えが返ってきた。
さもあらん。1998年6月のクリントン大統領訪中は、日本に立ち寄らず中国だけを公式訪問し、日本国内に大きな衝撃を与えたことを想起する人は日米関係者に限らずジャーナリズム界でも少なくない。「ジャパン・パッシング」のことだ。ここで件のトランプ演説に戻る。ワシントンの外交情報筋によると、WHのマイケル・ニーダム筆頭大統領次席補佐官(国家安全保障担当)とイバン・カナパシー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長が、事前に演説草稿に目を通さないはずがないという。両氏共に対中強硬派で知られる。
では、トランプ氏の衝撃発言はアドリブだったのか。真相は分からない。問題視すべきは、いったい何か。平たく言えば、米国に過剰な幻想を抱くな、ということではないか。今秋の高市外交は確実に正念場を迎える。
