11月3日(現地時間)の米中間選挙は、まさに想像を絶する「トランプ共和党の歴史的敗北」に終わった。野党民主党が米議会上院(定数100、改選35)と下院(定数435)の過半数を奪還した。中西部のカンザス、ミシガン、オハイオ州や南部のテキサス、サウスカロライナ州など与党共和党の牙城を制し、上下両院で「ブルーウェーブ(青い波)」による地滑り的な勝利を収めた。民主党の歴史的勝利を象徴するのは、激戦州とされたテキサス州の上院選でジェームズ・タラリコ下院議員が「真の戦いは左右の対立ではなく上と下だ」と主張し、38年ぶりに勝利したことだ。ドナルド・トランプ大統領と密接な関係を持つイーロン・マスク氏が途轍もない金額を共和党に寄付するのは、同氏の「スペースX」が同州バストロップに計画する宇宙AI(人工知能)データセンター建設と無関係ではないと、タラリコ氏に看破されたに等しい。マスク氏に象徴される「超万長者」のビジネスの恩恵を受けるのは限られた「上」の層だけだとのキャンペーンが多くの人に刺さったのである。それは、米メディアの世論調査(保守系FOXテレビを含む)において、トランプ一族が保有する金融・暗号資産で巨額の富を得ていることに疑念を示した回答が多く寄せられたことでも理解できる。今回の中間選挙の争点として、「物価高騰」には及ばないまでも、「腐敗」「汚職」が有権者の高い関心を集めた。
さて、民主党圧勝の兆しはあった。メディア各社の報道(記事)のなかで頻繁に引用される「米クック・ポリティカル・リポート」(CPR)の選挙情勢の分析・予測が好例である。新聞各紙の記事を見てみよう。
産経新聞(11月4日付朝刊)1面トップ記事は、見出し「トランプ共和に審判―米中間選挙、投票始まる」の中で<米政治分析サイトのクック・ポリティカル・リポートは下院選について、過半数218議席に対し「民主党優勢」が222議席、「共和党優勢」が195議席と評価し、18議席は「接戦」とした。上院は非改選を含め民主党が48、共和党が46と予測>と報道。日本経済新聞(3日付朝刊)は3面に「米中間選、上院7州接戦―トランプ氏は『赤い州』奔走」の見出しを掲げた記事中に<米選挙情勢分析サイト「クック・ポリティカル・リポート」は10月30日時点で上院選について、民主優勢47、共和優勢46、接戦7と予測する。下院選は民主優勢の選挙区が30日時点で222。過半数(218)を奪還する勢いが続く>と報じた。
さらに朝日新聞電子版(3日12:00更新)の「【まとめてわかる】米中間選挙の予想は?いつ結果?負けるとどうなる」の記事には、次のような件がある。<多数派の交代が有力視されているのが下院だ。全435議席が改選され、過半数は218議席。現在214議席の民主党は、わずかに上積みすれば足りる。選挙分析専門のクック・ポリティカル・リポートの11月2日の分析では、民主党の獲得議席は過半数の218を上回る情勢で、227~240の可能性が高いとしている>
そもそもCPRは、米選挙と政治情勢を独立した立場から中立・非党派で分析・予測する専門ニュースレター発行および調査機関であり、「選挙分析のピカソ」(米紙WSJ)と称されるチャーリー・E・クック氏が1984年に創設した。同氏は2021年8月に同リポート編集責任者をエイミー・ウォルター女史に譲り、自身は定期寄稿者として今日に至る。その他にも「ナショナル・ジャーナル」のコラムニストでもある。
さて、本稿で紹介するのは、そのクック氏が米中間選挙2週間前の10月20日、首都ワシントンで米法律事務所DLA Piperとコンサルタント会社The Cohen Groupが共同主催する非公開イベントで、米中間選挙について個人見解を披歴していたことだ。筆者は、同イベントでのクック氏発言の詳述記録を、しかるアカデミア関係者から提供された。その概要を紹介する。まずは、クック氏が挙げた中間選挙の結果を左右する3つの要因から。①大統領支持者の投票率低下:現職大統領の所属政党の支持者は通常、中間選挙への参加率が低くなる。現状への安心感、失望、政治的疲労、あるいは幻滅などが含まれる。②野党支持者の投票率上昇:野党支持者は、前回の大統領選の結果を覆したいという強い動機を持っていることが多い。これは「否定的党派性(negative partisanship)」を反映しており、今日の分極化した政治環境において、否定的党派性は特に強力になっている。③真に無党派の有権者は比較的小さな割合を占めるが、接戦となった選挙の結果を決定する可能性がある。▶︎
▶︎すなわち、共和党支持者の投票率が最大の不確定要因となった今回の中間選挙は、多くの共和党支持者や共和党寄りの無党派層がトランプ氏に不満を抱いているなかで実施される。彼らがどう対応するかは不透明である。失望しても共和党に投票する、不満表明のため特定選挙では投票を見送る、まったく投票に行かない、のうちのいずれか?投票を見送る有権者が相当数いるのではないか。
そしてクック氏はこう続けたという。「2028年大統領選に向けて民主党は中道で行くのか?それとも左派に振り切るのか?それを見極める上で、私は個人的に、全米で最も重要な単一の選挙は、ミシガン州の上院選挙だと思っています。なぜなら、その結果は、同党内で続いてきた「接戦州で勝つためには穏健派候補が必要なのか、それとも進歩派(左派)候補でも勝てるのか」という議論に、大きな影響を与える可能性があるからです」クック氏も指摘したように、全米レベルで最大の焦点となったのが、中西部ミシガン州上院選だった。急進左派のエジプト系移民2世でイスラム教徒の民主党候補アブドゥル・エルサイード氏(42歳)が、トランプ氏と親しい共和党候補マイク・ロジャーズ元下院議員(63歳)に圧勝した。2日付のCPR情勢分析は、評価が従来の「接戦」から「民主党がやや優勢」に変更していた。
この経過を振り返ってみる。2018年の中間選挙で共和党候補を破り、史上最年少の下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏が10月中旬にデトロイト入りし、エルサイード候補応援演説を行った。社会民主主義者を自任するオカシオコルテス女史は究極の大統領への野心を隠さない。そして、エルサイード氏の勝敗が、2028年大統領選に向けて民主党が進歩路線を採用するのかどうかを判断する重要な試金石になる。これが、クック氏が非公開イベントで語った最重要ポイントである。現時点では、民主党は急伸左派の勢いを抑えることができないとの意見が支配的である。「新保守のエース」と「社会民主主義の星」の激突、即ち共和党大統領候補J・D・バンス副大統領(42歳)vs.民主党大統領候補オカシオコルテス下院議員(37歳)が中間選挙前に想定されたカードではあった。しかし、最有力視されるバンスが、地元・オハイオ州で自らが推した上院共和党候補だけではなく、知事選でも共和党は民主党に敗れた。存在感の低下は否めない。となると次にあり得る「世紀の対決」の組み合わせは、共和党大統領候補マルコ・ルビオ国務長官兼大統領補佐官(国家安全保障担当・55歳)vs.民主党大統領候補タラリコ上院議員(37歳)である。こちらは「新保守の国際派」と「神の子」のガチンコとなるが、米国民はこれからどんな判断をくだすのか。
