2022年5月 ツキも実力のうちか、岸田内閣高支持率 

ロシア人もアメリカ人も政治ジョークが好きである。ロシア語では「アネクドート」と言う。例えばこんな具合だ。《ある男が赤の広場で「スターリンの大馬鹿野郎」と叫んでいた。早速秘密警察に逮捕され、強制収容所送りになる。刑期は25年。その内訳は…国家元首侮辱罪で5年。国家機密漏洩罪で20年》。一方アメリカンジョークは次のような案配となる。《父親がリンゴと聖書と1ドル札を息子の部屋に置いた。リンゴを取れば農業を継がせ、聖書なら牧師、札なら商人にするつもりだった。しばらくして部屋をのぞくと息子は聖書に腰かけてリンゴを食べていた。「おい、ドル札はどうした」。父親が聞くと息子は「俺、知らないよ」。結局、息子は政治家になった》。「俺、知らないよ」がキーワードで、政治家にはウソと金がつきものだということになる。
このジョークで「桜を見る会」前夜祭の費用をめぐり118回の虚偽答弁をした安倍晋三前首相を連想した人は多い。日本人も小噺は好きだが、政治風刺となると層が薄い。政権発足から半年以上経過した岸田文雄首相にも気の利いたジョークを進呈したいところだが、これが難しい。外野席からは、つまずきもなく、そつなくこなしているように見え、内閣支持率が高止まっている。メディア各社の直近の世論調査を覗くと、「支持する」は共同通信が61.5%▽朝日新聞59%▽産経新聞・FNN68.9%▽日経新聞・テレ東66%だ。時事通信(50.8%)と毎日新聞(53%)は比較的低い数字となったが、これはサンプル数が少なく「誤差」の範囲が広がったせいだろう。目を凝らして見るまでもなく、高支持率の要因は岸田氏が目を見張るような成果を挙げたわけでない。何にもしない「無作為」が結果として支持率を押し上げてきた。
ちなみに「無作為」と「不作為」は違う。無作為は「対処すべき事柄でないため対処しないこと」で、不作為は「対処すべき事柄を対処しないで放置すること」と、ものの本に書いてある。岸田氏の周囲に、緊急を要する「対処すべきことがなかった」のが幸いした。単にスピードを控えめに安全運転に徹していたら支持されたのである。三つのツキに恵まれた。一つ目は、非力でバラバラな野党である。オウンゴール連発で頼みもしないのに勝手に助けてくれる。筆者の「不作為」から最近はとんと野党を観察してこなかった。ここは、ベタ凪政局に対する責任の一端を担う野党に目を向けるちょうどいい機会かもしれない。47歳の泉健太氏を代表に選んで船出した新生立憲民主党だが、港を出た途端に航行不能状態である。一番の要因は、若い執行部を支える党内の後押しがないこと、加えて連合のイジメに遭っていることだ。「存在感、指導力、政権戦略を欠いた“お子ちゃま執行部”だ」と、御多分に漏れず党内の批判だけは一丁前だ。泉氏は、自民党に傾斜する支持団体・連合と衆院選で共闘した共産党との狭間で方向性を見出せないままもがいている。象徴的なのは、代表選で支援してくれた重鎮・小沢一郎氏を、本人の内諾を得て参院選の選対本部長に指名する方向で調整を進めたところ、菅直人元代表が「彼に任せたら、また党が混乱する」と猛反対、結局断念した。小沢氏は「泉はグズだ」とブチ切れた。新執行部を盛り立てようとする党風はなく「義理と人情に欠けた集団」のDNAは今も引き継がれている。関係者によると、ベテラン議員で党務に汗をかいているのは選対本部の岡田克也氏と玄葉光一郎氏ぐらいだという。前身の民主党政権が崩壊した最大の要因は、内部抗争による統治能力の喪失からである。今も立民と国民の間の溝は深い。政策理念の違いだけでなく、議員同士の感情論にまでエスカレートしている。泉氏は国民を「兄弟政党」と位置づけ連携を視野に入れていた。
しかし、共産の支援を得て小選挙区で当選した菅、長妻昭、手塚仁雄各氏らの意向もあり、共産との関係は無視できないという姿勢に傾き「非自民・非共産」を鮮明に打ち出すことには及び腰だ。一方、国民は脇目も振らず自民に接近し、新年度予算案採決で賛成に回る。国民の玉木雄一郎代表は「野党の再編は難しい。政策で勝負する。憲法も緊急事態条項を盛り込む改正を目指す。岸田政権は恐らく何もしない政権なので尻を叩いていく」と、ほとんど野党から離脱している立ち位置である。分裂する野党を、本来なら連合が仲介する役目のはずだ。▶︎ 

▶︎ところが、昨秋就任した芳野友子会長は、立民・国民の仲違い解消に汗をかくより自民への接近にご執心だ。連合の新年会に岸田氏を招待し挨拶させたが、泉、玉木両氏には話をさせなかった。芳野連合の頑な態度に立民が何も言えないのはどういうわけなのか。1カ月後には参院選が行われる。事前の情勢分析は後述するが、体たらくの野党が勝つと予想する人は皆無である。ツキの二つ目は、ウクライナ情勢だ。降って湧いたロシアのウクライナ侵攻で、岸田氏は反侵略・ロシア制裁強化の立場を貫く。世界中がそうしているからバンドワゴンに同乗しただけとも言える。選択肢は一択しかなかった。原油高騰による物価高と円安は政権への不満が高まるはずだが、国民の関心は今のところ戦況の方に向いている。「負けるなウクライナ、頑張って」の声に相乗りして支持率もアップする。ツキの三つ目は、コロナの感染状況だ。変異に変異を重ねた新型コロナウイルスは今、オミクロン株が主流である。ウイルス変遷の末、どうやらオミクロンは終末段階らしく重症化リスクが低いうえ感染者数も減少している。長かったコロナ禍のトンネルの出口がようやく見え始めた。これは岸田政権が何かをしたわけではなく、たまたま都合のいい場面に遭遇しているだけにすぎない、との厳しい見方がある。ことほど左様に岸田氏はウハウハの極みである。23日にはバイデン米大統領との首脳会談も上首尾で終え、競馬で言う「馬なり」状態で参院選のゴールを駆け抜ける。筆者の現状分析では、自民58議席(選挙区40、比例18)で、自民単独では改選過半数(63議席)に届かないものの、与党を組む公明の14議席(選挙区7、比例7)を足すと改選過半数を大きく超えて圧勝する。内閣支持率の高さと自民党の政党支持率が上昇基調に対し、野党陣営は四分五裂でひっくり返す要素が見当たらない。
少し詳しく見ていきたい。参院選での改選は124議席だが、今回は神奈川選挙区で欠員補充があるため125議席となる。内訳は1人区32▽2人区8▽3人区12▽4人区16+1▽6人区(東京)6。加えて比例代表が50。勝敗を左右する1人区のうち、事実上の与野党一騎打ちは10選挙区にとどまる。自民は擁立を終えたが、野党は候補者の一本化調整が遅れて乱立必至の選挙区もある。複数区のなかで2人区は自民と野党の住み分けが確実だ。3人区以上では自民が2議席獲得を狙う北海道、千葉、神奈川、東京のなか千葉、神奈川、東京で自民2議席が有力視されている。
注目の維新は、2人区の京都で立民現職の福山哲郎前幹事長追い落としと、6人区の東京で6議席目を狙っている。比例代表では、自民が優位で2016、19年参院選の19議席からの上積みを目指す。政党支持率や比例投票先のデータから推計すると、第2勢力を争う立民、維新、公明の3党が自民の4割前後の得票で揃って7~8議席を獲得する見通しだ。投票率は50%以下になると見込まれる。政党は国政選挙で頭に血がのぼるが、有権者は「政権選択選挙じゃないし、どっちみち自民が勝つんだろ」と半ば冷めている。過去最低の44.52%前後まで落ち込む可能性も想定される。前回衆院選で躍進した維新が参院選でも「台風の目」となりそうだ。起承転結の習いに従うと、本稿の〆はジョークを持ってこなければ座りが悪い。出来の悪さは認めるが、政治ジョークをもじって筆者もひねり出してみた。《何年勉強しても身につかないもの――アメリカ人の反戦教育▽ロシア人の道徳教育▽イタリア人の性教育▽中国人のマナー教育▽イギリス人の料理教育▽菅義偉前首相の弁論教育、そして岸田文雄首相の新しい資本主義教育》。お後がよろしいようで。 

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