2022年12月 「政治生命をかけた」岸田首相の先行き

年の瀬に書くものは、展望と回顧に等分される。人は師走になると、来し方を振り返り、これからを予想したい気分になるらしい。筆者は古希を過ぎて時の流れに敏感になった。コップの水が4分の1残っている。「もう4分の1しかない」vs「まだ2割5分もあるじゃない」。相反する感じ方を繰り返す。コップの水が更に減る2023年はどんな年になるのだろう。願望を込めて言うなら、ウクライナ戦争も新型コロナのパンデミックも終息してほしい。40年ぶりの世界的インフレはどう展開するのか。年末まで岸田文雄氏が首相であり続けるのか。「当たるも八卦」の領域になる。解の分からぬ問題は結論を先送りに限る。たまたま当たっても威張れる話か。個人的生活では、徳川家康の遺訓「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし、急ぐべからず」を肝に命じたい。さて、来年の主な政治の動きを表にまとめてみた。


何と言っても、岸田氏にとって重要なのは5月のG7広島サミットである。地元・広島での開催は悲願だった。日本外交にとっても、被爆地ヒロシマにとっても願ってもない晴れ舞台が用意された。そのテープを切るまでは、低支持率を叩かれようが、岸田下ろしの嵐に巻き込まれようが、息も絶え絶え這ってでもたどり着かねばならない。それが至上命題である。それゆえ、5月まで衆院の解散・総選挙はない。ほぼ断定していい。総選挙の結果次第で、自民党の下野、首相交代の可能性がある。危ない橋は渡れない。萩生田光一政調会長が解散を煽っても無理なものは無理だ。自民党内の岸田離れの波紋は広がっているが、まだ岸田下ろしに至っていない。広島サミットまで最低限この状態が継続してほしい、岸田周辺は神に祈る気持ちだろう。サミットが終わったらどうなるか。当初の腹積もりでは、余勢を駆って伝家の宝刀を抜き、長期政権への起爆剤にするつもりだった。しかし、現状では解散を打つ余力は残っていないように見える。「あんたの願いは十分聞き入れた。この辺でお引き取りを」と自民党内から「サミット花道論」が噴出しかねない。宴の後、岸田退陣があっても驚かない。インターネット・スラングでいう「オワコン」である。「終わったコンテンツ」、時代遅れ、用無しの意だ。永田町に伝わるジンクスがある。G7サミット日本開催年に首相は退陣する、という不吉?なものだ。1993年東京サミット=宮澤喜一首相退陣、2000年沖縄サミット=小渕恵三首相急逝で森喜朗氏に交代、2008年洞爺湖サミット=福田康夫首相退陣。2016年伊勢志摩サミット=安倍晋三首相無事生き延びる、2023年広島サミット=岸田文雄首相、始まる前から剣が峰に立たされる。それじゃ、次は誰なの?の段取りになるが、これが見当たらない。歳を取ってくると、どうしたわけか、昔の礼賛が始まっていけない。あの当時「三角大福中」「安竹宮」みんな順番待ちだった。今はどうだ。名前の挙がる政治家、みんな小粒に思える。いや、そうじゃないのかもしれない。人間の能力は今も昔も変わらない、はずだ。筆者の「予見能力」がオワコンに近づいているのだろうか。21世紀以降の長期政権は、小泉純一郎氏と安倍晋三氏の2人しかいない。小泉氏は「ワンフレーズ」で国民を虜にした。安倍氏は「安倍命」で滅私奉公する官僚らで脇を固めた。2人以外の首相はみんな1年前後で代わっている。特徴を持つ人が長続きし、ない人は短命。日本の政治風土とはそんなものか、と思ったりもする。卯年への年寄りくさい「妄想」「夢想」はこの辺で閉じて、22年師走へと時計の針を戻す。 師走の23日、『日本経済新聞』(電子版)に「政治記者が選ぶ22年の10大ニュース」が掲載された。年末恒例の回顧ものである。
 それによると(数字は順位)①安倍晋三氏が銃撃死②ロシアのウクライナ侵攻③旧統一教会問題が政治を揺るがす④国家安保戦略など安保関連3文書改定⑤安倍氏の国葬⑥急激な円安で物価高対策⑦参院選で自公勝利、立民議席減⑧北朝鮮のミサイル発射相次ぐ⑨閣僚の更迭相次ぐ⑩原発新増設しない方針を転換――となっている。妥当なピックアップだろう。ニュースを振り返る時、単に事実をトレースするだけでは詰まらない。▶︎

▶︎ひとひねり、出来れば2回半ひねりするぐらいの諧謔精神で臨みたい。筆者は『毎日新聞』の「仲畑流万能川柳」を愛読している。日経政治記者が選んだ10大ニュースは毎日の万能川柳でどう茶化されたか。①アベネタ句懐かしみつつご冥福②Tシャツのリーダースーツの独裁者③ある意味で神がかっている自民党④どさくさにまぎれて本音核共有⑤国葬でまとまる国と割れる国⑥物価上げ年金減らす新資本⑦立憲の党首の名前忘れてる⑧ミサイルを打ちワクチンを打たぬ国⑨多すぎて総理きれない馬謖たち⑩最初からうちは節電してますが――となる。どんな世の中になろうとも、物事を斜めから見る人がいるのはうれしい。
 一方で、政治家を揶揄しただけで牢獄に閉じ込める国家もある。自由な発言が許される国に住んでいることに感謝したい。回顧ついでに、昨年8月の自民党総裁選時に岸田氏が何と発言したかを調べてみた。「政治の根幹である国民の信頼が崩れている。わが国の民主主義が危機に瀕している」「私にはやるべきことがある。国の重大な岐路に立って国民の声を聞き、政治生命をかけて新しい選択肢を示す」。随分と歯切れが良かった。
 しかし、1年半近く経った現在「国民の信頼は崩れっ放し」のままで「新しい選択肢」も示されていない。政治と民意が乖離した「危機に瀕している」のは今の方ではないのか。揚げ足取りはこの辺にしておく。  師走、政治家先生だけでなく日銀も霞が関官僚も走った。岸田政権に波風が立ったエポックメーキングが起きた。一つは防衛費増額をめぐる財源の確執である。党内最大派閥の安倍派は後世にツケを回す赤字国債を主張、岸田派は国民に痛みが伴う増税を選択した。岸田氏はいつになく毅然と振舞う。「国家の意思を国内外に明確に示す。安定的な財源が抑止力となる」と肩をいからせた。党税制調査会合は荒れ、一時は「防衛増税政局」の様相を呈す。最終的には、増税時期を先送りすることで双方が矛を収めた。一部には政局を装う猿芝居との見方もあるが、岸田氏が就任後初めて示した「政治生命をかけた選択肢」とも見て取れる。
 もう一つ、震度5弱の「日銀ショック」で揺れた。黒田東彦日銀総裁が不意打ちの政策変更を仕掛けた。10年物金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げる。本人は「利上げでなく、緩和の延長だ」と、シラッとして言うが事実上の利上げだ。東京株式市場は大荒れとなった。このタイミングを狙ったのは「海外投資家がクリスマス休暇で市場参加者が少ない」「円安が落ち着いている」「次期総裁体制に向け露払いの必要あった」などが指摘されている。来年2月には次期正副総裁の同意人事案件を国会に提出しなければならない。1月中旬には後継が決まっているだろう。師走でさらに「走らされた」ご仁は、政治とカネ疑惑を抱える秋葉賢也復興相である。通常国会前の「厄介払い」で27日、更迭された。杉田水脈総務大臣政務官も道連れにされ「秋の山寺枯葉散る 杉の根元の水飲めず」の戯れ歌に詠み込まれた更迭候補5氏は予想通り一掃された。短期間に4閣僚辞任しても政権が続くこと自体異例である。しかも、すぐには倒れる兆しがない。作家の佐藤優氏は「最近の岸田政権を見ていると『深海魚』のように思えてくる。どの世論調査でも30%台の支持率という『深海』で生息している。そこで生きていくことが出来るような独自の生態系を作ることに成功したのかもしれない」(12月5日『東スポ』WEB)と論評する。岸田氏は年末23日夜の岸田派会合に出席し「防衛力強化、新しい資本主義などに取り組み、大きな土台を作ることができた。
 来年はこれを動かして結果を出す大切な1年になる」と強気にも語っている。人柄なのか、鈍感なのか、達観なのか、空元気なのか、周りの空気など一切無視、我が道を行く「深海魚・キシーダ」の面目躍如たるパフォーマンスだ。戦国時代の武将、上杉謙信が死の1カ月前に詠んだ漢詩がある。「四十九年 一睡夢 一期栄華 一杯酒」(49年の我が人生も一睡の夢のようなもので、この世の栄華も一杯の酒のようなものだ)。この詩、何となく岸田氏に贈るのがふさわしいように思えてくる。