2023年4月 吹き荒れた「維新旋風」の真相 

衆参5補選と統一地方選の真の勝者は日本維新の会である。獲得議席と戦いぶりが証明する。同党の馬場伸幸代表は地方議員数を600人以上に増やす目標を掲げ「達成できなかったら代表を辞任する」と明言していた。その“大言壮語”は軽くクリアされた。地方議員と首長の合計数は774人に達した。維新はすでに「関西地区の地方政党」ではない。オールジャパンの政党へと変容し始めている。前半戦の大阪市議会(定数81)選挙では、46議席獲得し、単独過半数を上回った。府議会(定数79)も現有51に4議席上乗せした。堂々たる与党である。対する自民党は市議選が6議席減の11、府議選が9議席減の7、大惨敗を喫し「その他の野党」に甘んじている。後半戦でも維新の風は吹きまくった。東京都内の地方議員数をこれまでの22人から73人に急増させる。神奈川県でも勢力が大きく伸びた。
 しかも上位当選者が目立った。議員選があった都内41市区のうち、新宿区や世田谷区、武蔵野市など11市区で1位当選し、江戸川区では維新の新顔が1、2位を占めた。神奈川県でも改選前の2議席が25議席に、埼玉県でゼロから5議席に増えた。川口市や浦安市で1位当選したほか、市川市や藤沢市など東京に近い首都圏で2議席を得ている。各メディアの出口調査によると、無党派層のかなりの部分が維新に投票、政治不信・不満の受け皿となった。公明党の山口那津男代表は「自公を批判して新しい政治スタイルを打ち出す維新のブランドイメージに票が集まった」と分析する。自民党は「維新が存在感を増し、国会でも無視できなくなる」と警戒感を強める。まさに日本中に維新(全てが改まり新しくなるの意)旋風を巻き起こしている。維新が猛威を振るっている要因は何なのか、政党の立ち位置は奈辺にあるのか、どこに向かおうとしているのか。今回の小欄は「維新研究」に紙幅を割きたい。その前に自民党に触れておく。衆参補選で4勝1敗だった。数字の上では勝つには勝ったが、高揚感がちっとも湧かない勝ちぶりだ。保守王国の和歌山1区で維新の新人に敗退、千葉5区では野党の乱立で混戦に助けられた辛勝である。岸田文雄首相は24日の党役員会で「国民から叱咤激励をいただいたと受け止めている」と固い表情で語った。
 例えて言えば、長篠の戦い(1575年)での織田信長の心境に近い。信長率いる鉄砲隊は武田勝頼の騎馬軍団を破り、武田家の勢力を削ぐことには成功した。だが、多くの犠牲者を出たことや、戦った相手が「軽く見ていた」勝頼だったことから、信長の勝利に対する高揚感は薄かったとされる。勝頼はその後、信長から甲州征伐を受け、天目山で自害。平安時代から続いた戦国大名としての武田家は滅亡した。岸田政治「中間評価」の選挙結果を受けて、衆院の解散・総選挙のタイミングがくすぶり始めている。最も早いのが、広島G7サミット(5月19~21日)直後の解散、6月6日公示、18日投開票説。2番目が6月21日の国会会期末解散、7月中の投開票。最後が9月の自民党役員人事・内閣改造後の秋の臨時国会召集冒頭の衆院解散である。内閣支持率がV字回復し(4月22~23日実施のFNN世論調査で、支持が前回より4.8%増の50.7%、不支持44.7%で、8カ月ぶりに支持が上回った)、更にサミット効果の賞味期限が切れないうちに解散を断行すべき、と主張する人は早期説に傾く。6月の「骨太の方針」で示される少子化対策や防衛、原発など一連の政策変更や今後の外交成果を踏まえたうえで国民の信を問うべきと考える向きは秋の総選挙説になる。もっとも、年内はスルーして、対立候補が見当たらない来年の自民党総裁選までにやればいい、という考え方もないではない。
 今、決め打ちするのは愚かである。岸田氏の性格からして決断したら、党の要路(少なくとも自民党幹事長、選対委員長、公明党代表ら)には事前連絡するはずだ。その周辺から漏れてくるだろう。なぜなら、あれほど情報管理が徹底していたウクライナ隠密行でもポーランドに到着すると、与党幹部に「これからウクライナに行く」と携帯電話で連絡を入れている。岸田氏には、シラッとして抜き打ちする「非情さ」がない。維新研究に転じる。党是をひと言で表わすなら「改革」である。しかも「身を切る」という枕詞がつく。これが40代以下の世代にフィットする。以前にも書いたような気がするが、これまで有権者は自分と各政党に「保守」「革新」「右」「左」などのラベルを貼り、投票の指標にしてきた。戦後長く続いた保守対革新の構図では、革新と言えば社会党や共産党、その亜流だった。▶︎

▶︎しかし近年、特に若者層でこのラベルが混線している。高齢者は「勉強不足だ」と目くじらを立てるが、最も「革新」的で「リベラル」な党を維新と見ている若者が多い。改革の中身はイデオロギー的なものではなく、現状を変えるぐらいにとらえている。逆に、護憲派などは「現状を変えない」と主張するから「保守」と見なされる。極端な言い方をすれば「維新は革新、立民・共産は保守」の認識が今の30代以下では“常識”らしいのだ。政治アナリスト、大濱﨑卓史氏の21年衆院選分析でも、維新に投票した人に限って維新評価を見ると、リベラル(13.0%)ややリベラル(29.6%)が計4割を超え、中道(34.7%)を上回る。時事通信が今回補選で行った出口調査によると、和歌山1区で「支持政党なし」と答えた無党派層のうち、66.7%が当選した維新の林佑美氏に投票した。自民党支持層からも3割近くが林氏に流れている。各メディアの世論調査は、自民党支持と「支持政党なし」の率が相対的に高く、野党が著しく低い。このデータから推し測ると、有権者の選択肢は事実上、自民党と無党派の二択になっているのではないか。維新は「今の与党や野党に投票したくない」という人たちの心理に共鳴しているのかもしれない。維新は21年に「維新八策」の政策提言を発表した。明治維新の雄、坂本龍馬が船で上京する際、同乗の後藤象二郎に示した国家構想「船中八策」にならったのだろう。誰も読むのをパスしているだろうから、こういう機会に1番目に掲げてあるものだけでも記しておく。《「身を切る改革」と徹底した透明化・国会改革で、政治に信頼を取り戻す》。理念だけで有権者を引き寄せることはできない。維新は12年から大阪で首長、府政、市政を与党として担い、高校の授業料無償化など実績を重ねてきた。行政手腕は評価され「何でも反対」の野党とは趣を異にする。吉村洋文知事がコロナ対応で示したさばきと新鮮なイメージ、加えてメッセージの明確さ、巧みなメディア戦略に共感を覚えた人は多い。機を見るにも敏である。和歌山1区補選を例にとりたい。22年大阪・関西万博の成功を目指す維新は、万博の国会議員連盟の要職にある鶴保庸介参院議員(二階派、和歌山選挙区)が出馬すれば、公認候補を見送る予定だった。
 ところが、和歌山1区で4連敗中の門博文氏になったことで「十分戦える」(藤田文武幹事長)と判断、昨年8月の和歌山市議選で初当選したばかりの新人、林佑美氏をぶつける。「自民党は目の前の政治家に近いところの利益を優先する。僕たちは将来の利益を優先する」。党の共同代表でもある吉村氏は選挙戦で、自民党重鎮の二階俊博前幹事長、世耕弘成参院幹事長が仕切ってきた和歌山の政治を「古い」と一刀両断する。馬場代表は「かつての高度成長期のような、ワクワク・ドキドキ感のある政治を実現する」と語り、大阪で進めてきた「身を切る改革」「しがらみのなさ」をアピールして二者択一を迫った。かつては、維新幹部が自民幹部と頻繁に会合を重ね「与党に合流するのでは」と言われた時期があった。
 だが今では「自民党と対峙する」(吉村氏)「公明党との関係をリセットする」(馬場代表)と、独自の道へと舵が切り替わっている。維新の内情に詳しい人によると、名実ともに吉村氏(47)の代表就任、藤田幹事長(42)、音喜多駿政調会長(39)、柳ケ瀬裕文総務会長(48)らのヤングパワーが組織をコントロールするようになれば、自民党のくびきから離れた党に完全脱皮、政権党を目指す道を歩み始めるという。維新は昨年、結党10年を迎えた。本気で全国政党を目指すなら、優秀な人材はまだまだ足りない。次期衆院選が第1ハードルとなる。馬場代表は24日の記者会見で「今度の衆院選では小選挙区全部に候補者を立てる」という目標を掲げた。藤田幹事長は「我々は解散までに時間があった方が候補者をたくさん立てられる。もし早く解散を打ってくるなら、自民と公明による『維新つぶし』と捉えさせてもらう」と牽制した。維新はこれまで、公明の現職がいる大阪、兵庫の衆院6選挙区で擁立を見送ってきた。早期解散には「問答無用で立てる」(藤田氏)と言い切る。仮にそうなれば、公明は少なくとも4選挙区で落とすと見込まれている。ただ、若い政党の宿命で候補者集めは思うように進んでいない。事情通によると、現状で小選挙区に擁立できるのは70人余、残る約220選挙区は全くメドが立っていないという。執行部の本音は「総選挙は遅いほどいい。少なくとも秋まで待ってくれ」のようだ。全国政党へ飛躍できるかどうか、正念場を迎えている。