2023年7月 今秋の衆院解散・総選挙説が萎んだか?! 

梅雨明けしてからうだるような暑さが続く。暑中お見舞い申し上げます。連日の気温よりも岸田文雄内閣の支持率が下回るようになった。岸田氏には寒気を催す事態だ。主要全国3紙と日経、2通信社とNHKの7月世論調査が出揃った。支持率は軒並み3割台に落ち込み、毎日新聞の調査では2割台に突入した。サミット貯金を使い果たしたどころか、閣僚辞任ドミノ当時の「借金暮らし」みたいなお寒い数字のオンパレードだ。今秋の衆院解散を目論む岸田氏だが、このまま支持率が低空飛行を続けると解散ムードは遠のくばかりになる。無理やり伝家の宝刀を抜いたところで「竹光」だったことがバレて、悲惨な結果しか待っていない。支持率3割以下の首相は解散権を奪われたに等しい。主なメディア世論調査の支持率をピックアップする。毎日(7月22~23日実施)は前月比5ポイント減の28%で3割を切った。退陣の危険水域に足を突っ込む。読売(同21~23日)は35%(6P減)で岸田内閣発足以来の最低水準となった。朝日(同15~16日)は37%で前月より5P落ち込んだ。通信社は共同が34%(6P減)でこれまた岸田内閣同社調査の最低水準、時事は30%(4P減)だ。自民党支持率も引きずられて下がっている。
 内閣支持率と政党支持率を足して50%を切ると政権は持たない――例の「青木の法則」が口の端に上るようになった。首相官邸スタッフから「想像をはるかに超えた数字だが、マイナ問題の体たらくからすると当然かもしれない」という呻き声を聞いた。麻生太郎副総裁は派閥議員のパーティーで「政治家の評価は死んで歴史家が講釈するもの、支持率なんて当てにならない、と岸田さんに申し上げた」と語る。歴史家の「講釈」とはずいぶんなワーディングだが、発言内容は分からないでもない。深読みすると、そうでも言って慰めないと岸田氏が落胆するという兄貴分の配慮だろう。「支持率に一喜一憂しない」は時の首相の常套句である。しかし、現実の政治は毎月の内閣支持率という「勤務評定」でふるいにかけられながら動いている。死んでからの評価は麻生氏の言う通りかもしれない。岸田氏は20日、遠藤利明総務会長と官邸で会談した。その際、支持率が続落していることに「(支持率は)上がったり下がったりするものだ。いずれ上がる」と述べた、と共同通信が伝えている。見出しは「首相、支持率続落に強がり見せる」だ。恐れ入谷の鬼子母神(古いなあ!)、首相たる者、このぐらいの神経(あるいは無神経)でないと務まらないのかもしれない。内閣支持率が続落し、党内基盤も強くないのに、自民党内で「岸田おろし」の声は上がる気配すらない。猛暑でセンセイ達が皆夏バテしたのか、永田町はシエスタ(昼休憩)へ入ったように弛緩しきっている。奇妙な静けさのなかで岸田政権は低支持率にもかかわらずダラダラと続いていきそうなのだ。本稿の趣旨は、なんでそうなるの?を説き明かすことにある。永田町を取材している者なら十中八九、同じことを言うと思う。①有力な対抗馬がいない②野党がいがみ合って足の引っ張り合い――大雑把に理由を挙げるとこの二つに収斂する。岸田氏が能力あふれるリーダーだから持ちこたえているのではない。周りが勝手にコケたり、オウンゴールしてくれるから存続していく構図なのだ。少し詳しく見ていきたい。ポスト岸田候補として巷間名前が挙がるのは、茂木敏充幹事長、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安保担当相、萩生田光一政調会長らである。茂木氏はエリート臭が強い。能力は誰もが評価する。
 ただ、人間的魅力で支持を拡げるタイプではない。要職を歴任することで首相候補までのし上がってきた。霞が関の有力官庁幹部は「自民党政治家のなかで断トツに優秀なことは認める。だが霞が関からすれば、どの役所も茂木さんが大臣として来るのはノーサンキューというのが共通した反応だ」と明かす。そういえば、勉強はメッチャできるけれどクラスの嫌われ者というのがいたなあ。近く予定される党役員人事で、党ナンバー2ポストを外されれば、無役で「岸田おろし」を仕掛ける胆力があるとは思えない。党内第3派閥「平成研究会(54人)」の領袖だが、重鎮の故青木幹雄氏と折り合いが悪かった。公明党ともよく喧嘩する。次期幹事長が青木氏の推していた小渕優子元経産相や萩生田氏にお鉢が回ると、幹事長ポストを奪われて急速に求心力を失った石破茂氏の二の舞になりかねない、との見方もある。現時点での筆者の見方は、同氏の幹事長続投である。▶︎ 

▶︎「次の首相は?」の世論調査で、これまで人気を保ってきた河野氏は、所管のマイナ保険証でトラブル続出、一転、批判の矢面に立たされている。逆風下でも現行保険証の来秋廃止を譲らない強情さで党内からも反発を受ける。第2派閥「志公会(55人)」に所属するが、世代交代を恐れる領袖の麻生氏は前回総裁選で岸田氏を推す。もともと党内基盤が弱いうえ、国民人気まで陰ると次期総裁レースのオッズは跳ね上がるだろう。穴馬扱いか。高市氏には後ろ盾が安倍晋三元首相しかいなかった。岩盤保守層の間で「クイーン」扱いされたが、唯一のバックボーンを失って存在感がしぼんだ。次の内閣改造では閣外だろう。総裁選で推薦人の頭数を揃えることすら難しい状況に追い込まれた。最大派閥の清和政策研究会(100人)は安倍氏の一周忌を過ぎても後継会長が決められないでいる。いまだに通称「安倍派」だ。昭和の時代「大きいことはいいことだ」というひょうきんな指揮者、山本直純氏のテレビCMがあった。派閥に限っては必ずしも「大きいことはいいこと」でない。タガが緩む。100人になった安倍派は、暫定的に派閥運営を任されているベテランの塩谷立、下村博文両会長代理の「早期の会長選出」派と、一世代下の萩生田氏、西村康稔経産相、松野博一官房長官、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長の「5人衆」による集団指導体制派が互いに主張を譲らず、新体制を決める総会も開けない有り様だ。最近は、何かとしゃしゃり出たがる下村氏を外して「5人衆+塩谷VS下村」の構図になっているとも聞く。重鎮の森喜朗元首相は萩生田氏を会長に推している。
 だが、清話会の半数以上は森氏の政界引退後に政界入りした人たちだ。森氏の「鶴の一声」で決まる気配がない。安倍派の混迷は、実は岸田氏の政権運営にとって、願ってもないありがたい状態なのだ。ヒトの腸内には善玉菌と悪玉菌、さらにどちらかの細菌叢が優勢になるとそちらに味方する日和見菌が存在する。今の安倍派はいわば「自民党の日和見菌」である。会長を頂いて派としての主張、政権獲得戦略を持つ集団になっていない。岸田氏は、安倍政治の後継者を自任して党内保守派へ「安倍氏の遺言だ。ちちんぷいぷい」の呪文を唱えていれば首を取られることはない、と高をくくっているかもしれない。安倍派の混乱を傍目に見ながら、事実上の「岸田1強」状態なのに、わざわざ萩生田氏を派閥会長へ後押しして、清話会の結束に手を貸すのは何のメリットもない。自らの政治生命を短くするだけだ、と思っているに違いない。野党に目を転じる。こちらのカオスは自民党に輪をかけて凄まじい。立民の政党支持率は維新に抜かれる状況が定着した。
 次の衆院選で、野党リーダーは維新になるだろう。維新の馬場伸幸代表は23日に生出演したネット番組で、維新が目指す方向性に言及し「第2自民党でいい。第1、第2の自民党の改革合戦が政治を良くすることにつながる。立民がいても日本は何も良くならない」と語った。立民との連携は「未来永劫ない。やるか、やられるかの戦いだ」。共産党には「なくなったらいい政党。おっしゃっていることがこの世の中でありえない」。ほとんどけんか腰の口上である。もちろん立民も共産も猛反撃したが、党勢拡大で次の野党主役が約束される維新は「脇役は引っ込んでいなさい」の本音が出たのだろう。ツイッターでは「第2自民党」がトレンド入り。「第2自民党なら政党である必要がない」などの批判で炎上した。「第1自民VS第2自民」発言に国民民主の古川元久国対委員長は「違和感を覚えない」と同調する。古川氏の解説は「イオンとイトーヨーカドーぐらいの違い」。店の看板は違うが、ともに広範な品揃えで消費者からの選択を待つ。政権選択の対象となる2大政党は「9割似通っている」というのが国民民主の立ち位置らしい。野党間の罵り合いはエスカレートするばかりだ。次期衆院選で、自・公与党に対抗して野党候補を一本化することは絶望的状況である。与党が候補者を一人に絞り込んでくるのに野党候補が乱立したら、1議席を争う小選挙区で勝ち目はない。バラバラな野党では岸田自民党が政権を失うことはないというリアル感が、政界から緊張感を奪っている。
 さて、当の岸田氏は今、何思う。岸田氏はよく「春風接人」と揮毫する。人に対し春風のように優しく接する。幕末の儒学者・佐藤一斎が遺した言葉だが、この後に「秋霜自粛(自分には秋の霜のように厳しく行動をただす)」と続く。首相周辺によると、「温厚で良い人」は岸田氏の一面でしかない。本質は負けん気が強く、厳しい世論調査結果にもめげるどころか「なにくそ負けるものか」と火が点いた状態だという。弛緩する永田町で、一人だけ燃えている図柄なのか。そうした中で、首相周辺では永田町で流布される今秋の衆院解散・総選挙説だが、何も急いで議席減のリスクを取ってまで年内解散に拘る必要はないのではないかとの声が強くなりつつあるのもまた事実である。一寸先は闇の政治の世界では何があってもおかしくない――。