自民党総裁を選ぶ「永田町競馬」G1レースまで2カ月を切った。いまだ、本命(◎)、対抗(○)、穴(▲)がはっきりしない。予想屋はオッズがつけられず手持ちぶさたである。我も我も、と出走してフルゲートのレースになるかもしれないし、推薦の20人が集められない馬も出てきそう。
本来なら、本命馬になりそうな岸田文雄首相からして、出るのか取り止めるのか、はっきりしない。厩舎の情報では「本人はやる気満々、出る」という。他の厩舎は「あんな駄馬が出たら、自民党が沈没する」と牽制する。岸田厩舎の調教師、麻生太郎副総裁までがどの馬を出すか、まだ決めかねている状況らしい。同時期、立憲民主党のG1レースも予定されている。9月は永田町競馬ファンにとって、たまらない興奮の日々を迎える。岸田氏の総裁任期は9月30日満了を迎える。党の規定は、満了前の10日以内に総裁選を実施すると定めている。出走日は9月20、29日のいずれかになる。今年は24日以降に開かれる国連総会で一般討論演説がある。首相は例年出席しているので、9月8日告示、20日投開票説が有力だ。正式には8月中旬、選挙管理委員会(逢沢一郎委員長)が決定する。自民党は、麻生派(志公会、55人)を除く5派閥が「解散」を決めてから初めての総裁選である。領袖のツルの一声で馬券を買っていたこれまでとは異なる未体験ゾーンに入る。議員票の行方が読みにくい。加えて、中堅・若手議員にはしがらみが取れて、出馬のハードルが下がった。「党の刷新や世代交代を掲げ、多様な人材がいるとアピールする場になる」と、歓迎する向きもある。永田競馬場の関係者、マスメディアのアドバルーン情報などを総合すると、出馬が予想されているのは、以下の面々だ(今後、諸般の事情から出走取り消しもある)。前回レース覇者(首相・総裁)の岸田氏▽茂木敏充幹事長▽石破茂元幹事長▽小泉進次郎元環境相▽河野太郎デジタル相▽加藤勝信元官房長官▽高市早苗経済安全保障相▽小林鷹之前経済安全保障相▽野田聖子元総務相▽上川陽子外相。出走馬が決まり、オッズが絞られてくるのは、夏の放牧で休養した後「追い切り」の調教が佳境を迎えるお盆休み明けの9月に入ってからだろう。「勝手気ままが言える」今しかない時期に、出走予定馬の「現状」と「馬定め」をしておきたい。何はさて置き、岸田氏(馬名・ユージューフダンスター)からである。この馬の最大の売りは、心身共に頑強なことだ。0泊3日の外国訪問などへっちゃら、帰国後仮眠もとらずに国会答弁に臨む。現職閣僚の高市氏もそのタフさに仰天する。開成高校野球部で鍛えた基礎体力に加え、今も首相公邸にトレーニング機器を持ち込んで筋トレに励む。出走が予想されている顔ぶれで、疲れを知らないタフさにかけてはピカイチだろう。首相・総裁は激務である。バイデン米大統領の例を持ち出すまでもなく、体力・知力が衰えた人(馬)にネーション・リーダーは務まらない。加えて、精神も「頑強」そのものである。別な言い方では、並外れて「鈍感」だ。愚直なまでに自分のペースを崩さない。罵倒に近い野次や超低空の世論調査の数値を気にせず仕事に集中できる特異な精神構造をしている。岸田周りも「いい意味でも悪い意味でもあの鈍感さは普通でない」と語る。裏返すと、空気を読めない鈍感さゆえに、判断が遅くてかったるい。在任中少なくとも2回は解散する好機が巡ってきたが「先送りできない課題に取り組む」と、一つ覚えの空念仏を唱えパスした。ただ優柔不断と決めつけていると、突然「派閥解散宣言」「政倫審出席」「旧文通費5万円超公開」など“突発性決断症”を発症して自民党内を驚かす。麻生調教師も「わけわからん。侮ったら火傷する」と距離を置いている。
さて、肝心要の、出走に踏み切るかどうか。党内では、次期衆院選や来夏の参院選を睨んで「新しい顔にならなければ選挙にならない」との大合唱が起きている。しかし、岸田周りは「絶対的ライバルは不在で、勝機は十分ある」と強気を崩さない。最側近の木原誠二幹事長代理は講演で、出馬断念について「ないと思っている。これまでの成果や政策には自信があり、堂々と出れば戦える」と断言する。岸田再選のカギを握る麻生調教師は、まだ再選支持の言質を与えていない。競馬ファンをじらすかのように「牝馬か若駒」の選択肢を温存している。牝馬なら上川氏、若駒なら小林氏を想定か。バイデン氏撤退宣言の際、ユージューフダンスターは「最善の判断」とコメントした。お盆休み明けにも予想される自身の「ヒヒーン」といななく最善の判断はいかに。
5度目の挑戦となる石破氏(ディープセイロン)。党外と党内の人気落差が極端に激しい馬だ。「正論」の塊、平たく言えば新聞の社説を身に纏ったような馬体だが、固すぎて義理と人情に乏しい。言うことはごもっともだが、温かみに薄い。旧石破派(水月会)に所属していた議員から聞いた話は今も耳に残っている。概略、こんな内容だった。「私は全力投球で石破さんを将来総理・総裁になって欲しいと願い、政策を含め何から何まで誠心誠意仕えたつもりだ。▶︎
▶︎だが、私が退会するまでの約3年間、ただの一度も酒を呑みに行こうとか、疲れただろう今晩は何か美味いもの食うぞといった誘いはなかった。あの防衛・外交オタクと言われる人が、防衛相経験者の中で最も嫌われるのもその辺が関係している」。7月1日夜、都内の中華料理店で、菅義偉前首相、武田良太元総務相、石破氏が会食した。菅氏は「岸田降ろし」の急先鋒で、麻生氏と張り合う有力調教師である。ポスト岸田にどんなデザインを描いているのか、競馬ファンは気が気でない。この席で、石破氏は最後まで調教師に「総裁選はよろしくお願いします」と頭を下げることがなかった。セットした武田氏はもとより、調教師もディープセイロンの振る舞いに不満を抱いたという。
とはいえ、対抗馬が岸田氏であれ、茂木氏であれ、菅調教師の描くポスト岸田の「首相・官房長官・幹事長」主要3ポストの枝ぶりは石破、進次郎、加藤の3頭で整えるしかないと見られている。ディープセイロンは27日、生産地の鳥取県で講演し、「この国を鳥取から変えたい。残った議員生活を懸けていきたい」と、例によってもったいぶった言い方で「出馬」をほのめかした。総裁レースも若い世代の突き上げが厳しい。67歳になるディープセイロンにとって今回がラストチャンスではないか。茂木氏(キレキレテイオー)に移る。頭脳明晰だが「徳」に欠ける馬だ。気性が激しい。自分の思い通りに行かないと、すぐキレる。党のナンバー2として岸田氏を支える立場にありながら、対抗馬として名乗りをあげれば「裏切り馬」のそしりは免れない。「私が最初に手を挙げることはない」と、最終判断を8月末~9月上旬に設定する。12年の総裁レースで、石原伸晃幹事長(当時)が執行部の立場で出馬し、谷垣禎一総裁(同)は出馬断念に追い込まれた。その振る舞いが「平成の明智光秀」(麻生氏)と反発を生み、石原氏は大失速する。キレキレテイオーは「令和の光秀にならない」と公言しているが、その言葉とは裏腹に、最近の言動は出馬に向けてエンジン全開だ。夏に東南アジア4カ国訪問の独自外交を展開。「ほぼトラ」が現実味を帯びてくると、トランプに伍して交渉出来るのは自分しかいない、とひけらかす。旧茂木派の鈴木貴子党青年局長(鈴木宗男氏産駒の牝馬)を使い、旧派閥横断的に衆院4回生以下の若手飲み会をセットさせ、自分が出向いてシンパを増やしている。この馬の弱点は、党外での極端な不人気だ。「次の総裁は?」の7月世論調査で、朝日2%、読売1%、共同2.5%しかない。ディープセイロンと正反対だ。総裁レースで勝ち残るには、ユージューフダンスターが出走取り止め、麻生調教師の全面支援が前提となるが、そんなに上手く事が運ぶだろうか。小泉進次郎氏(スカスカキャップ)は、父純一郎元首相の「50歳になるまではダメ」のくびきを振り払ったのか、後ろ盾の菅調教師に出馬の意思を伝えたとの話が流布している。
ただ「進次郎首相」にリアリティを覚える競馬ファンは少ない。確かに素人受けの演説は上手いが、中身がスカスカ。吉本芸人のしゃべくりを聞いているような感じだ。かといって、政策の勉強を地道に続けているという話も聞かない。立民の辻元清美代表代行が「進次郎氏に首相が務まるなら、私でも務まる」と言い放ったのは、失礼ながら「正しい」。仮に、刷新感だけで「次の選挙の顔」用に総裁に就いたとしても、すぐに馬脚を現すだろう。霞が関の官僚群が一番危惧しているのは、年内の政権交代より「進次郎首相」下での来夏の参院選だ。自公の過半数割れは現実味を帯びており、衆参ねじれが再びこの国を直撃する。何事も決まらない国家になる。年内の衆院選は“進次郎人気”で自公政権が持ち堪えたとしても、それ以降の国家運営はスカスカキャップ政権で可能なのか?答えは「ノー」が霞が関の総意なのだ。紙幅が尽きてきた。最後に小林鷹之氏(こちらが命名する前にすでに『コバホーク』が定着している)を取り上げる。名前の「鷹」は、父親が上杉鷹山から取ったという。外務省出向経験もある財務官僚出身。当選4回(衆院千葉2区)の49歳は、自民党の中堅・若手で断トツの有力馬にのし上がった。政界事情に詳しい友人がこの優駿を褒め上げる。まず英語が堪能だ。岸田氏側近の木原氏もネイティブに近い英語を話すが、英語で「交渉」まではできない。
その点、コバホークは全く問題がない。この馬の凄いところは、問題点を把握するとその到達点からフィードバックさせて解決策を幾つか用意し、素早くプレゼンテーションが出来る能力だという。友人は、その現場に何回か居合わせ「舌を巻いた」と賛辞を送る。何事にも評価が厳しい麻生派の大番頭、甘利明元幹事長も「絶賛」しているそうだ。ただ、寸評だけを聞く限り、首相の器より首席秘書官(補佐官)向きという感じがしないでもない。無名に近い石丸伸二氏が都知事選ではじけた例もある。出馬すれば「▲」をつけたい。 他の出走予定馬は割愛させていただく。動向を見て、機会があれば取り上げたい。