不謹慎のそしりを甘受して、前回に続き自民党総裁選を「競馬風」記述で展望する。何をやっても不人気に喘いでいた岸田文雄首相(ユージューフダンスター)が不出馬を宣言して、永田町競馬の様相がガラリと変わった。過去最多の10頭前後が名乗りを上げそうな混戦である。自民党内の陰口に耳を澄ますと「えっ、あの馬も出るの?出たいと思った馬が全部出てしまう」という声が聞こえる。寅さんでないが「結構毛だらけ」ではないか。「新生自民党の姿を国民の前にしっかりと示す」ためギャロップで走り出している。テレビのワイドショーが詳細に報じるまで「テレビジャック」され、あおりで立憲民主党の代表レースがかすんでしまった。ピンチはチャンス、とはよく言ったものだ。今、総選挙をやれば、自公合わせても過半数に届かず政権交代へ、が選挙通の見立てだった。それを一発の“退陣”表明でチャラにした。「最後っ屁」としては絶妙のタイミング、出色の放屁である。臭うけど唸るしかない。自民党は変革期を迎えている。黒船が来航し旧来の「鎖国」や「幕藩体制」を解除する動きが先鋭化する一方で、佐幕派の新選組も跋扈する幕末期に相当する。まだ明治維新は来ていない。自民党維新の権力構造が固まる出発点が新総裁を選ぶG1レースとなる。確定・未定を含め予想される「馬ぶれ」は次の通り(順不同)。石破茂元幹事長(ディープセイロン)▽小泉進次郎元環境相(スカスカキャップ改めヨコスカポエム)▽河野太郎デジタル相(マイナンバーオンリー)▽高市早苗経済安保相(ウハウハクイーン)▽茂木敏充幹事長(キレキレテイオー)▽上川陽子外相(オバサンホマレ)▽小林鷹之前経済安保相(コバホーク)▽林芳正官房長官(マンプクフグ)▽加藤勝信前官房長官(オンコウスキー)▽齋藤健経産相(シランケド)▽野田聖子元総務相(カアチャンマタネ)。厩務員情報によると、このうちオバサン、オンコウ、カアチャンの3頭が推薦の20人確保に苦労しているという。シランケドは、途中でポエムの陣営に参加するとのうわさもある。ポエムが出馬会見を1週間遅らせたのは台風10号の影響ではない。推薦人が菅義偉調教師直系の「菅印」議員に偏った印象を薄めるため、分散工作の時間稼ぎとみられている。
まず、永田町に巣くうブックメーカー(賭け屋)の単勝オッズから紹介したい。人気順から、ポエム2倍、セイロン3.5倍、ウハウハ4倍、コバホーク7倍といったところが現状の相場感になる。他の出走馬は10倍以上に跳ね上がる。もちろん告示後の追い切り調教でオッズの数字は変動する。今G1レースの特徴は「40代KKコンビの若駒」対「石破・高市・茂木ら60代熟年馬」の新旧対決にある。勢いは若駒の方だ。筆者が勝手に付けた予想は「本命ポエム、対抗セイロン、穴ウハウハ、大穴コバホーク」。理由は以下の通り。自民党は幕藩体制が制度疲労を起こし、崩壊の危機に直面する。外では高杉晋作、坂本龍馬ら薩長土肥の志士が世代交代を叫ぶ。幕府内にも勝海舟ら柔軟思考の幕臣は抗いがたい「時代の流れ」を感じ取っている。間近に迫る総選挙で、自民党が「負けない一手」は、トップを若手か女性に据えるしかない。そこまで追い込まれている。経済・外交・安保政策より、最優先事項は「選挙の顔」を誰にするか。地方の党員・党友も阿吽の呼吸でその辺の「力学」は承知している。選考基準を「若返り」にするなら、ポエムかコバホークしかいない。
筆者は当初、この2頭を本命、対抗に推していた。だがコバホークは出馬会見で応援団となった旧安倍派裏金議員の救済策を持ち出したことがアダとなって失速、現時点では穴馬へ格下げする。「女性」を基準にするなら、ウハウハ、オバサン、カアチャンの牝馬3頭だが、ウハウハが頭一つ抜けている。日本社会は欧米各国より「ガラスの天井」が分厚い。牝馬はガラスをぶち壊すのに苦戦を強いられている。熟年馬のセイロンは馬体に艶がなく、競走馬のエンジンに当たるトモにも張りが見られない。ただ、国民の人気投票で常にトップ争いをする。地方票は国民感情に近いとされるので「対抗馬」に置かざるを得ない。セイロン厩舎の戦術は、1回目のレースで2位以内に入れば万々歳。決戦レースでポエムに勝てないことは合点承知だ。進次郎政権が出来したら、ナンバー2の幹事長ポストを狙いに行く。1回目のレース展開を予想する。ゲートが開くと、脚質スプリンターのポエムが飛び出し、先行する。3馬身離れてセイロンとウハウハが追走。コバホークが馬群中段に構える。騎手は手綱を押さえ気味、折り合いはついているようだ。4コーナーを回って、直線コースでの叩き合いが始まった。逃げをうったポエムはいっぱいいっぱいになるが、なんとかトップをキープ。セイロンとウハウハは動物愛護家に「いい加減にしなさい」と叱られるほど鞭で尻を叩かれるが伸びてこない。中段にいたコバホークは末脚良く馬なりで伸びてくる。ゴールは、ポエム、セイロン、ウハウハの3頭が横一線で駆け抜けた。写真判定に持ち込まれ、結果は……。 ▶︎
▶︎支持馬券が過半数を超えないと、上位2頭による決選レースとなる。混戦の総裁選レースでは公算大だ。ケース・スタディする。ポエムとセイロンの一騎打ちなら、ポエムが断然強い。議員票が優遇される再レースで、国会議員に超人気薄のセイロンの分が悪い。懸念材料がある。筆者の予想に反して、1回目のレースでセイロンがぶっちぎりで1位になった場合だ。地方票でトップになった競争馬を旧派閥主導の議員票で引きずり下ろせば、贔屓の引き倒しになる。議員票が「嫌いでも仕方ない」とセイロンに雪崩を打つケースも考えておかねばならない。ポエムとコバホークの決戦になったら大接戦だ。ポエムは「気候変動はセクシーに取り組むべきだ」「調査で増えたから、増えたかどうか調査する」などの「進次郎構文」で名を馳せ、国民には人気が高い。トンチンカンだが刷新感だけを優先するなら十分「選挙の顔」になる。国会予算委のTV中継は更なる進次郎構文の期待感から視聴率を稼ぐだろう。ただ賞味期限は短い。一方のコバホークは党内の若手頭脳集団が後押しする。天は五物を与えた、といわれるほど「欠点のないのが欠点」の優駿だ。中堅・若手議員らの厚い支持を受けるが、壮年以上は煙たい存在かもしれぬ。
以上、勝手な予想を開陳した。残りの紙幅は前回コラムで約束した他の出走予定馬の寸評をしておきたい。勝負は水物だ。万馬券が出るかもしれないので…。【河野氏、マイナンバーオンリー】生産牧場は平塚市。祖父・一郎副総理、父・洋平衆院議長の3代に渡る血統のサラブレッド。外相在任中、外相専用機導入を求めたが「やり過ぎ」の批判を受け断念する。気性が荒く、レース中騎手と折り合いがつかないリスクをはらむ。デジタル相として「マイナ保険証」を推進するが、勢い余って現行保険証廃止を決めたことが混乱を招く。党内で唯一派閥存続を宣言した麻生厩舎に所属。永田町に漂う脱派閥ムードが「離脱してから出ろ」の声となり、この馬の立ち位置を難しくしている。【高市氏、ウハウハクイーン】保守派の星を自任してきた牝馬。後ろ盾の安倍晋三調教師の死去後、人気、人脈とも広がらない。21年総裁選に出馬した際は泡沫扱いだったが、安倍調教師が派閥に「高市の馬券を買え」とハッパを掛けると、議員票で2位となる。岸田政治の“アンチテーゼ”としては、セイロンとウハウハが双璧か。地方票をどこまで掘り起こせているのかが鍵。【林氏、マンプクフグ】生産牧場・山口県下関市で、父・義郎元蔵相、母の祖父は宇部興産社長という産駒だ。林牧場は「大津屋」の屋号で代々醤油醸造を営む名家、県内で安倍牧場と覇を争う。地元特産のフグを食べ過ぎたのか、馬体が重い。調教で絞り切らないとゴールまでたどり着けるのか。趣味は楽器演奏、浜田靖一氏らと議員バンドを結成。G7外相会議でピアノを即興演奏する「ピアノ外交」で余技を活かした。ネーション・リーダーの資質では、経験・実績・能力でキレキレとマンプクだが、如何せん両馬とも人気がない。【上川氏、オバサンホマレ】馬齢71歳、出馬すれば最高齢馬になる。法相を3度務めた。虫も殺さぬたおやかな立ち振る舞いだが、2度目の在任中、オウム真理教の元幹部13人に対する死刑執行を命じた硬骨の牝馬だ。一時、麻生太郎調教師が「美しい方とは言わないけれど、堂々として外国に出ても英語できちんと話す。このおばさん、やるね」と変な持ち上げ方をして「総裁候補か」と騒がれる。
その後、支持が広がらずポシャッタかに思えたが、今回「20人をはるかに超える支持を得た」とイレ込んだ。その後「支持が推薦に繋がらない」と愚痴っているのは、権力闘争初参加の脇の甘さか。同じ旧宏池会に所属したマンプクと支持議員がカブリそうなのがハンディキャップ。【加藤氏、オンコウスター】菅調教師の評価が高く、急浮上した。温厚な気性の雄馬で、党内には足を引っぱる敵がいない。議員票で「最大公約数」になり得るが、知名度が低く「選挙の顔」には物足りない。旧茂木厩舎では、ボス馬のキレキレと微妙な緊張関係にあった。【齋藤氏、シランケド】党内中堅議員切っての政策通で現経産相。09年総選挙で当選した自民新人(馬)はシランケド、ポエムら4頭しかいない。「自民再生の四天王」と評され「四志の会」を結成。旧石破派(水月会)に属したが、親分の面倒見の悪さに堪忍袋の緒が切れ厩舎を飛び出す。ポエム政権が出来たら官房長官の呼び声高い。コバホークが東大ボート部主将なら、シランケドは東大ハンドボール部の主将。【野田氏、カアチャンマタカ】大蔵事務次官、建設相などを歴任した故野田卯一氏の養女。夫は「元暴力団員」と裁判で認定される。障害児を育てながら議員活動も続け、何事にもめげない名牝といえる。「総理総裁になるには義理人情と運」(小泉純一郎元首相)が必要だそうだが、消滅した旧河本厩舎に属し、運に恵まれない。今回も推薦人集めに苦労している。というわけで、9月27日が待たれる。