国民民主党の快進撃が続いている。最近の地方選で他党候補を蹴散らしてトップ当選が目白押しだ。世論調査の政党支持率では野党1位が続く。夏の参院選比例区の投票先でも自民党とつばぜり合いする。戦う前から参院選の勝利が約束される有様だ。勢い余って「玉木雄一郎宰相」論まで頭をもたげる。対する少数与党の石破茂首相は「オウンゴール」連発で人気が急落する。本稿では上昇気流に乗る国民民主の玉木代表と下降気流できりもみ状態にある石破氏の「今」を対比して進めたい。3月23日投開票された全国の市議選で、東京・小金井市、茨城・北茨城市、静岡市の清水区と葵区、長埼・諫早市の国民民主公認候補5人がトップ当選を果たした。奈良・香芝市でも推薦候補が1位だった。先の衆院選で議席4倍増(比例区で登載名簿を超える当選者を出し、3議席を他党に譲ったほど)の勢いは決してフロックでなかった。主要メディア各社の世論調査でも、昨年12月から政党支持率で野党第1党の立憲民主党を押しのけ、トップをキープしている。唯一、立憲民主党に次ぐ2番手に甘んじていたNHKだが、3月調査で立民を上回り1位に躍り出た。特に40代以下の支持者増が顕著だ。産経新聞・FNN合同世論調査(2月22~23日実施)では、30代の政党支持率は①国民民主15.9%②れいわ新選組14.4%③自民11.2%の順となり、政界関係者に衝撃が走った。党首の玉木氏が「対決より解決」を掲げ「手取りを増やす」という簡潔でわかりやすいキャッチコピーをユーチューブで流し続けた戦術が、若者の心を鷲づかみにした。看板政策は「年収103万円の壁」引き上げ。課税される年収最低ラインを現状の103万円から178万円に引き上げ、パートやアルバイト学生の働き控えを解消させる。
加えて、基礎控除が引き上がるためミドルクラスの納税者の多くが恩恵を受ける。エコノミストらは「一石二鳥の政策で目の付け所がいい」と舌を巻く。自民1強時代は、企業の懐を暖かくする政策に傾斜した。企業は儲けた金を賃上げなどで社員に還元せず、内部留保として貯めこんだ。結果として、消費は増えず、景気が低迷する。若者たちの貧困意識は拡散、増幅していった。企業ではなく、家計に直接金を回す。これまでとは逆方向に舵を切る国民民主の政策は、生活苦を覚える20~40代の琴線に触れる。「就職氷河期」を味わった40代を含め20~30代のZ世代はSNSで玉木氏の発信に触れ、これまでの政策がいかに偏っていたかに気づいた。一方の石破氏はハンドリングを間違えば坂道を転げ落ちる政権運営を強いられている。滑り出しこそ無難な国会答弁で、野党につけ入るスキを与えなかった。
だが、2025年度予算案が衆院を通過してからおかしくなった。高額療養費の上限額引き上げを巡って二転三転、予算案を再々修正する。あおりで予算の年度内成立が危うくなっている。ドケチが売りだったのに、10万円商品券を衆院初当選15人に配り、国民から「物価高にあえぐ暮らしの中で10万円がどれほど重いか」と猛反発を受ける。「GNP」(義理・人情・プレゼント)は自民党が得意とする「慣習」である。石破氏は国会答弁で「人付き合いが悪いの、ケチだのと散々言われてきたので、そのことを気にする部分が相当にあった」と釈明する。自民党の伝統に宗旨替えしお歳暮のようなつもりだったなら、いずれ国民から手痛い「返礼品」が届くことになろう。足元の森山裕幹事長からも「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず。李下に冠を正さず、の教えをしっかり意識しながら活動することが大事だ」とお叱りを受ける。さらに、予算成立間近になって「予算成立後に強力な物価対策をする」と公明党代表に語る。食料品に限って消費税を5%に下げることを模索しているとの噂が流布される。野党からは「予算案が不十分だと白状しているようなもの」と糾弾される。自民党内からも「このタイミングで物価対策をぶち上げるのは完全な判断ミス」と恨み節だ。自陣のゴールに球を蹴り込んで3失点したのは、予算案の衆院通過で緊張感が緩んだのか。確かに石破氏は評判通り、語りがうまい。論理構成がしっかりして、故宮沢喜一首相の答弁を彷彿とさせる。
ただ、おしゃべりが過ぎて、自分で酔ってしまう。黙っていることができず、余計なことまで語ってしまう癖がある。オウンゴールが続いて内閣支持率は就任後最低を記録する。玉木氏は自身のXに「審議中の来年度予算案を速やかに見直しませんか。ガソリン減税を含めてすぐにやりましょう」と投稿。自業自得と言えよう。支持率の急落は自民党内に波風を立てた。冷や飯を食わされている旧安倍派の面々が「石破は参院選で党の顔にならない」と騒ぎだしたのは想定内だが、麻生太郎党最高顧問までがポスト石破に向けうごめきだしたという風聞が届く。若手のホープ、小林鷹之党経済安保推進本部長を総裁候補に担ぎ、麻生派、旧茂木派、旧岸田派の過半をコア勢力に、旧安倍派の萩生田光一元政調会長や世耕弘成元参院自民党幹事長に近い議員を集めて総裁選に臨む。小林氏が首相になった暁には、閣僚・党役員の枝ぶりまで想定しているという。話としては面白いが、果たしてリアリティはあるのか。座談の名手お得意の政局向け「ネタ話」の類いなのかもしれない。▶︎
▶︎なぜなら仮に小林氏が新総裁に選ばれたとしても、首相指名選挙を勝ち抜き、衆院解散して総選挙で与党過半を回復するのはハードルが高すぎるからだ。岸田文雄前首相が自らの退陣と引き換えに派閥解消にこぎつけたのに、1年もたたないうちに復活するようでは、有権者のみならず自民党員からも総スカンだろう。現状ではハードルを飛び越せない確率の方がダントツ高い。たとえ麻生氏が本気だとしても春宵の夢物語で終わりそうな気がする。ちなみに、小林氏は27日、かつて自民保守派の“良心”とされた伊吹文明元衆院議長を講師に勉強会を開き、中堅・若手議員ら約50人が参加した。小林氏は昨年暮れ、中長期の国家戦略を策定する勉強会を発足させ、月1回のペースで会合を開いている。石破氏は「内」に反石破グループの蠢動、「外」に低支持率という内憂外患を抱えて参院選に臨むことになる。
一方、追い風を受けている玉木氏は、参院選で議席「4倍増」を目指す、と鼻息荒い。少数与党の政権下で、国会運営のキャスティングボートは野党側にある。衆院で28議席しかない国民民主がその中核にいる。永田町では「玉木首相」論が半分真顔、半分冗談で取りざたされる。かつては「親小沢」対「反小沢」で政界が動いていた時期のキーパーソンだった小沢一郎衆院議員(立民)は、今や辛辣な口調が売りの「政治評論家」である。その小沢氏が「玉木首相」論に乗り気だ。25日、巷に流れる玉木首相論を「極端に言えば(首相候補は)誰だっていい。野党がまとまれば、政権を取ったとたんに自民党は分解する。自民党が壊れてから、ゆっくり自分のことを考えればいい。なぜその発想にならないのか不思議で仕方がない。(立民は)万年野党が好きなのかという感じがする」と囲み取材の記者団に語る。細川護熙氏(日本新党)を神輿に担ぎ上げ自民党を下野させた手法はいまだ健在のようだ。さては「玉木首相」で動くのかと思いきや、そうでもないらしい。足腰が衰えてきたのか、口先だけのようで、国民民主への批判も忘れない。「国民民主に勢いがあるということだけど、そろそろ峠だわな。政権をきちんと狙わない政党は続かない。維新を見なさいよ。最初は、野党第1党を目指してという感じだったけれど、今はしょぼくれちゃっている。国民民主だってキャッ、キャッと騒いでいると、それで終わっちゃう」と小沢節の開陳だ。立民の小川淳也幹事長もテレビ番組で、仮に石破内閣が総辞職して首相指名選挙になった場合、玉木氏を野党側の統一候補として担ぐことに「あらゆる可能性を排除するわけにいかない」と語る。
ただ、こちらも本気で言っているのかどうか。言葉のアヤを使って与党に揺さぶりを掛けているような気もする。国民民主は26日の両院議員総会で、参院選向けの経済対策をまとめた。積み残しとなった「103万円の壁」問題を178万円まで引き上げると明記。6月までにガソリン税暫定税率廃止や猛暑の夏に電気料金に上乗せされる「再生可能エネルギー賦課金」の廃止も盛り込んだ。「手取りを増やし」「家計を楽に」の経済対策に特化する。旧大蔵官僚出身の玉木氏は会合で「経済対策は国民民主が引っ張っていく覚悟で取り組む」と宣言する。全国的な広がりを見せる「財務省解体デモ」の隊列に国民民主の支持者も加わっているという。飛ぶ鳥を落とす勢いの玉木氏だが、果たして首相になる日はやってくるのか。今は前提条件が多くて「頭の体操」の段階である。参院選で①自公が大敗②立民も負け③国民民主が独り勝ち④自民が石破氏を退陣させ新総裁を選んだとき、野党連合は本気で政権を取りに行くだろう。その4条件が揃えば「玉木首相」が現実味を増す。その意味では、参院選は「政権選択選挙」になる。ただ、かつての小沢氏のような剛腕の旗振り役が見当たらないことも確かで、すんなり「玉木首相」で決まるとは思えない。
そして最後に、こうした厳しい現状を石破氏が性格からしても指をくわえて傍観しているはずがないので、野党による内閣不信任決議案提出前に一か八か衆院解散に打って出る可能性を排除すべきではないと付言しておく。