通常国会は箱根駅伝でいうなら往路から復路に入った。残り2カ月を切った後半国会の焦点は「企業・団体献金」の扱いと夫婦別姓の是非になるはずだったが、今国会での決着は見送られる公算が濃厚だ。永田町の関心は早や、夏の参院選の勝敗とその後の政界再編の方に移っている。会期末の恒例行事、内閣不信任決議案が出るかどうかもはっきりしない。野党第1党の立憲民主党は乗り気でないとされる。石破茂首相は以前から「不信任なら解散」を覚悟する。衆院が解散されたなら、夏の政治決戦は衆参同日選挙になる。衆参ダブル選は、候補者擁立を巡る野党各党の利害得失から乱立、潰しあいが想定される。
結果として自民と公明が漁夫の利を得る。加えて、物価高とトランプ関税の「国難」下にあり、解散で1カ月半の政治空白が生じる。立憲民主党の枝野幸男元代表は「年中行事だからといって、不信任案提出は無責任極まりない」と不提出派だ。野田佳彦代表も基本的には様子見である。だが、野田氏最側近の手塚仁雄幹事長代行は「(提出の)可能性は高い」と語る。理由は、ほかの野党に現政権との距離を明確にする「踏み絵」の役割だ。踏み絵を使って参院選後の連立組み替えに先手を打つためである。立民の選挙戦略は、石破氏が首相(自民党総裁)のまま参院選を戦い、衆参とも少数与党に持ち込むことにある。与党の自公は当然のことながら、非改選議員を含めて自公過半数獲得を勝敗ラインに置く。この攻防の結果次第で、参院選後、わが国の政治様相はがらりと変わる。今回の本稿は、まだ頭の体操の領域だが、参院選後の政界の姿かたち、とりわけ「政界再編」と「ポスト石破」の顔ぶれにスポットライトを当てる。戦う前から参院選で勝つことがほぼ保証されているのは国民民主党である。その他の党は蓋を開けてみなければわからない。出たとこ勝負になる。4月上旬自民党が行った参院選情勢調査で「非改選を併せどうにか自公で過半数獲得」という結果があるにはある。もし、その通りの星取表なら石破政権は続投になろう。
しかし、世論調査に協力的な高齢者の動向は把握できても、調査に答えない、かつ生活難に腹の底で怒りを募らせている若い世代がどっと投票所に足を運ぶと事前予測など吹っ飛ぶ。自民が大負けしたら、石破氏は退陣となる。衆院選敗退の責任をだれも取っていない上に参院選で負けて、生き延びることなど誰が見ても無理だ。自民党総裁選は8月15日過ぎのお盆休み明けに行われるだろう。ただし、自民党が比較第1党としても、新総裁が首相指名選挙で新首相に選ばれるとは限らない。今度の指名選挙は、事実上複数の政党が協力しながら政権運営の組み合わせを選ぶ制度設計の場となる。一方、自公で過半数を少し下回る「小負け」の場合、どうなるのか。石破氏の命運は微妙だ。「お引き取り」を願うのか「いや、もうちょっとやらせる」か、どちらも考えられる。いずれにせよ、自民が政権から離脱せず安定政権を作るには野党を取り込まなければならない。連立政権の政党組み合わせは①自民・公明プラス国民民主②自民・公明プラス維新③自民・公明プラス立民④立民・国民民主・維新・れいわ新選組の非自民連合政権、の4ケース考えられる。ケース・スタディしてみる。自公が参院選で過半数割れになれば、まず維新に連立参加を持ち掛ける。仮定の話になるがこの場合、衆参ともギリギリ過半数の可能性は残る。もし維新が断れば、政権を失わないために、次は国民民主に誘いをかける。誘いの呼びかけ順は逆になるかもしれない。国民民主は「玉木雄一郎首相」の条件なら引き受ける。国民民主と公明はすでに企業・団体献金の改革案づくりでタッグを組み、関係は良好だ。玉木氏は「公明が支えてくれるなら首相指名は受ける」と周辺に漏らしている。公明党の幹部も「石破氏のクビがどうなっていようと、選挙後の安定政権は自・公・国の連立政権しかない。すでに玉木首相は視野に入れている」と語る。“玉木嫌い”の財務省も自・公・国「玉木」連立政権も止む無しのようだ。可能性はゼロに近いが、野田氏が首相になるのは、玉木氏が誘いを断り、自公に選択肢がなくなって「野田首相」を担いで大連立に走る場合である。「国難の時には野田首相でも良い」と公言する政界関係者もいる。
かつて自民党が社会党の村山富市首相をOKした例にならう。④の共産党抜き非自民連立政権のケースで、立民が「野田首相」をゴリ押ししたら話はまとまらないと思う。指名選挙で決戦投票になった場合、自公は玉木氏に投票してくる公算が強いのでこのケースでも「玉木首相」で収斂しそうだ。玉木氏は25日、福岡市内で『西日本新聞』のインタビューに応じ「公党の代表をしている以上、いつかはこの国を率いていきたい」と語り、やる気満々だ。▶︎
▶︎筆者が最近会う政界関係者との話題は「ポスト石破」の顔ぶれ予想が多い。皆さん、石破政権に半ば見切りをつけ、残りの半分は「次」に軸足を移している。能力、識見、度量、好き嫌い…政治家も官僚もおのが物差しで固有名詞を挙げ、百家争鳴である。誰がどう言ったかは、差しさわりがあるので丸めた話にしたい。自民党の若手有望議員の一人は、この国のネーションリーダーになってほしい人、あるいは、なるに相応しいリーダーとして①齋藤健前経産相②萩生田光一元政調会長③木原誠二選対委員長④小林鷹之党経済安保推進本部長の4人(年齢順)を挙げた。能力、力量に限れば、齋藤、木原両氏が断トツと付言する。筆者の見立ても異存はない。旧石破派に所属した齋藤氏は、霞が関が日米関税交渉の最有力候補と見込んでいた人材だ。ちなみに、他の候補には茂木敏充前幹事長と林芳正官房長官が挙がっていた。赤澤氏を貶めるつもりは毛頭ないが、なぜ彼に白羽の矢が立ったのか、筆者はその根拠を石破氏に問いただしたい。国難の対応は好き嫌いを度外視、オールジャパンで取り組むべきミッションのはずだ。齋藤氏はかねてからの石破氏との関係がこじれ、はなからお声がかからなかったという。「齋藤命」で支える子飼いがいないことは、元「親分」の境遇と似ている。木原氏とは何度か会食したことがあるが本音を明かさない人だ。「次の次」を目指して、官房長官や主要閣僚、党幹事長など人目にさらされるポストを経験してもまれた方が飛躍できる。霞が関の盟主、財務省はコバタカこと小林鷹之氏を裏面で全面的にバックアップしている。
ただ、石破後継を狙うには「まだ早すぎる」との見方が支配的だ。ここはいったん自・公・国の枠組みによる「玉木政権」の主要閣僚を務め研鑽を積んで力を貯めておけ、とアドバイスする人が財務省要路にいる。それにしても木原、小林、玉木、出てくる名前がすべて財務官僚出身者なのも奇異な感じがする。齋藤氏だけ経産官僚出身である。故安倍晋三元首相は脱「財務省支配」を目指し、経産官僚出身者を重用した。鬼籍に入るや、永田町はすぐ先祖返りしてしまったのか。話は急に飛ぶ。元衆院議員、渡辺喜美氏の名前をお忘れではあるまい。第1次安倍内閣で行革担当相、金融担当相を歴任。09年1月に自民党を離党、8月に「みんなの党」を結成した。第3勢力を目指すが、内部分裂で解党、22年に政界を引退した。父はミッチーこと渡辺美智雄元外相である。最近、喜美氏の執筆した「財務省との距離感が次の政界再編軸になる」が通底するコラム(JPプレス掲載)を読んだ。政界を引退しても、政治とはまだ縁切りしていないようだ。切れ味鋭い一言居士だった父に似て、文章は歯切れよく一刀両断、読んで痛快である。中身をつまみ食いし、いいとこ取りして紹介したい。少し長くなるが、本稿のテーマに沿うのでご辛抱を。政治の世界で人を動かす原理は3つ。①利益の供与②脅迫③象徴の操作。政治学者の永井陽之助氏が言う。③は平たく言えばマインドコントロールで信者を作ること。この原理を縦横無尽に駆使し、伝説の政治家になったのが田中角栄元首相。そんなカリスマはもういない。
代わって、いま影の権力者と言われるのが財務省。①予算を編成・配分②徴税での査察権を背景に無言の圧力③財政は危機的状況にあり増税が必要、と刷り込む。3つの原理が詰まって「日本のディープステート(DS)」とまで言われる。石破内閣は財務省シナリオで動いている。DS財務省にとって首相は自分たちのパラダイムを理解してくれる人ならば誰でも良い。今の内閣なら「霞が関の守護神」と言われる林芳正氏か。新顔なら「疑似積極財政派」の疑念が消えない小林鷹之氏あたり。コントロール可能な安全牌は小泉進次郎、河野太郎、加藤勝信各氏。野党なら立民の野田佳彦代表。要注意は異能の持ち主、茂木敏充氏か。反対に、若者世代に支持の厚い、信念の減税派・玉木雄一郎氏やアベノミクス後継者を任ずる高市早苗氏はぜひとも避けたい選択肢だ。官僚主導は昔からあるが、現在のような財務省主導型政治が完成したのは1990年代以降だ。カオスの時代こそ、次の未来を準備するチャンス。好みで言わせてもらうと、一人前の国家、小さな政府、真の政治主導を志向する思想哲学を持ち、官僚のレトリックを乗り越える知恵と、政治の手練手管を操るワザを持った勢力にご登場願いたい、と結んでいる。ヨッシーはミッチーの政務秘書官を含めて永田町の居住歴が長い。政界の裏の裏まで知り尽くし、語り部として説得力がある。政治は停滞するより流動する方が筆者のような職業には好都合だ。参院選後の政治の姿かたちを楽しみに待つとするか。