国会は会期末まで残り3週間となった。ゴールが近づくと永田町は何かと騒々しい。すぐ東京都議選と参院選を控えているのでなおさらである。会期末政局の焦点は、野党第1党の立憲民主党が内閣不信任案を提出するかどうか。少数与党下の国会、出せば可決する可能性は排除できない。可決されれば、石破茂首相は衆院を解散し、衆参ダブル選挙で政権選択・政界再編の熱い夏を迎える。野党の一角(可能性として維新)が不信任案に反対すれば、参院選単独となる。あるいは、選挙態勢の整わない立民が不信任案提出をスルーすることも想定される。野田佳彦代表は今、思案投げ首だろう。政権交代のチャンスでもある不信任勝負に出るか、参院選単独での野党勝利(衆参とも少数与党)で政権交代につなげる方が現実的なのか。ゴールテープの6月20日まで悩ましい日々が続く。この問題は後半部分に触れるとして、本稿の前半は世情にぎわす「令和のコメ騒動」から始めたい。 コメの値段が1年前の2倍に急騰する異常事態が続いている。経済理論を援用するまでもなく、需要があるのに市場に十分な量のコメが供給されていないからである。去年国内で生産された主食用コメは前年より18万トン増えたにもかかわらず、JA(農協)など集荷業者が集めることができたコメは逆に前の年より21万トン減った。本来なら多くのコメが出回っていいはずなのに、出てこないのは誰かが流通させていないから、と考えるのが妥当だ。中国人が生産者から直接高値で買い占め、米価が吊り上がるまで市場に出るのを抑えているという「陰謀史観」説が一部でささやかれているが、真偽のほどは定かでない。農林水産省は、コメの流通を促す切り札として手始めに集荷業者が集められなかった量と同じ21万トンの備蓄米を一般競争入札で市場に放出した。大凶作のため備えている政府備蓄米を放出する非常手段に訴えてもスーパーなどの店頭値段は高止まったままだ。家計が圧迫されている中、こともあろうに江藤拓前農水相が佐賀市の講演で「コメは買ったことがない。支援者がたくさんくれるので、売るほどある」と、コメ高騰に苦しむ国民を逆なでした。当然SNSは大炎上する。余計なお世話かもしれないが、江藤氏の父、故隆美氏は村山富市内閣の総務庁(当時)長官だった時「植民地時代に日本は悪いこともしたが、いいこともした」と口を滑らせ、辞職している。江藤父子は失言と因縁が深い。石破氏は当初「農政の継続性重視」の理由から、厳重注意したうえで江藤氏を続投させた。ところが、野党5党が「農水相不信任案提出」で合意したことで状況が一変。石破氏は、党農水族のボスでもある森山裕幹事長と協議し、江藤氏からの辞表提出(事実上の更迭)と後任に小泉進次郎前党選対委員長の起用を決めた。
以下、少し余談になる。農業に縁もゆかりもない「横須賀ポエム」がなんで農政に詳しいのか?と不審がる向きもおられようが、彼は党農水部会長を務めている。事情通によると、小泉氏がどうにか部会長を全うできたのは、脇に鈴木憲和前農水副大臣(現復興副大臣、山形2区当選5回、農水官僚ОB)が控え、農政通の鈴木氏の振り付け通りに動いたからだという。鈴木氏は開成高、東大法卒、上級国家公務員試験も上位で合格したが、なぜか財務省が採用せず、農水省入りする。四半世紀前、彼の父が福島県の磐梯リゾート開発会社(その後倒産)の大株主だった時、大蔵官僚ОBがごっそり役員に名を連ねたその会社に不正融資疑惑が持ち上がり、新聞紙上をにぎわしたことがある。事情通は、鈴木氏の財務入省が叶わなかった背景にその時のゴタゴタが関連しているのでは、とにらんでいる。ちなみに、小泉氏は部会長時代華々しく「農協改革」を打ち上げたが、党内農水族の切り返しに遭い、尻すぼみに終わっている。閑話休題。小泉氏は就任早々「備蓄米の店頭価格は5キロ2000円を実現できる」と断言した。直近の平均店頭価格は5キロ4268円。大手の小売業者(1万トン以上を扱う業者)を対象に随意契約で放出する。放出量は「まずは30万トン。30万トンを超えても需要があれば、無制限で出していく」とミエを切った。無制限は言い過ぎで、30万トンを放出すると備蓄米は残り30万トンしか残っていない。国が業者に売り渡す価格は60キロ当たり税込み1万1556円。小売業者の手数料などを上乗せしても税込みで5キロ2160円程度と試算する。27日には、約60社の大手小売業者から申請が殺到し、いったん随意契約を中止する羽目に至った。農水省はこれまで計31万トンの備蓄米を一般競争入札形式で放出してきた。最も高い価格を付けた業者が落札する仕組みで、コメ高騰の要因と指摘されていた。しかも集荷業者、卸売業者、小売業者の順に下流に流れるので、それぞれマージンが積み重なり、店頭に並ぶのにも時間がかかる。加えて、先高観から卸売業者の一部に在庫が「滞留」しているとも報じられている。国は、公平性・透明性の点で“禁じ手”と言われる随意契約に切り替えて価格を下げることに踏み切った。成功すれば、参院選後の石破続投や、ポスト石破の小泉株上昇につながるとの見方が出る。▶︎
▶︎一方で、これは根本解決ではなく応急の対処療法に過ぎないとの意見もある。備蓄米だけでなくブランド米の販売価格も一緒に下がるのか。備蓄米とそれ以外で価格が二極化するようでは消費者の理解は得られるのだろうか。小泉氏起用によるコメ対策が吉と出るか凶と出るか、会期末には判定が出ているだろう。
政局展望に移る。通常国会会期末に野党が内閣不信任案を提出しなかったのは2013年の1回しかない。それほど「恒例行事」化している。最近会った立民の有力議員は「出さない選択肢はゼロだ」と言い切る。しかし、筆者は敢えて逆の見方を採りたい。理屈は後から貨車で付いてくる、という至言があるが、根拠は永田町全体の雰囲気が衆院選に臨む感じになっていないからだ。いくら衆院は常在戦場と言っても、与野党とも戦う態勢を整えていない。1カ月以内に都議選、衆参ダブル選の大型選挙が集中するのは与野党とも御免被りたいのが本音なのだ。支持率が低迷する石破氏はどんな選挙でも退陣につながりかねないので避けたい。都議選、参院選は予め決まっているからしょうがない、という気分だろう。公明はハナから「衆院選、勘弁してよ」である。立民の野田氏は「(衆院解散による)政治空白は日米関税交渉での国益確保の障害になる」と繰り返し言っている。本音は「やりたくない」で、理屈は後から貨車に乗せたのだろう。27日の自民・公明・立民による年金制度改革法案の修正合意も不信任案回避への環境づくり、という見方が多い。参院での年金改革法成立は早くても6月第2週以降になる。したがってその前の不信任案提出はありえない。政治スケジュール的に見ても、不信任案を出すタイミングは極めて狭まる。会期末の6月22日は日曜日なので、事実上最終日は20日(金)。都議選は13日告示、22日投開票である。選挙期間中の不信任案提出は選挙結果に影響を与えそうなので常識的には控えたいところだ。加えて6月15~17日、カナダ・カナナスキスでG7サミットが開かれ、石破氏は不在となる。留守中に不信任案採決などありえない。公然と不信任案提出を煽っているのは、国民民主の玉木雄一郎代表と維新の前原誠司共同代表ぐらいだ。
ただ、これも「額面通りには受け取れない。から元気を出しているだけ」というのが大方の見方だ。維新は政党支持率が低迷、破竹の勢いだった国民民主もここにきて変調だ。5月の各社世論調査政党支持率(前が前回、後が今回)で、国民民主は朝日12%→8%▽読売13%→11%▽毎日11.4%→8.4%▽共同18.4%→14.1%。明らかに失速している。過去に言動を批判された他党の元衆院議員らをかき集め、参院選の党比例代表名簿に登載したことが支持者の失望を呼んだとされる。全国の市議選で公認候補のトップ当選が相次いでいたのに、18日の埼玉県和光市市議補欠選挙(定数1)で敗れている。永田町ウォッチャーらは「国民民主の勢いは止まった」の見方で揃う。
最後に、参院選での自民党議席予測と選挙後の自民・公明・国民3党連立による「玉木首相」説に言及しておきたい。石破氏は勝敗ラインを参院全体(248議席)のうち、自公で過半数(125議席)に置く。非改選議員が自公で75人いるので、今回改選のうち自公で50取れば過半数維持になる。公明が10議席取ると仮定するなら、自民は40議席取らなければならない。複数区と比例で25獲得すれば、計32ある1人区で残る15人の当選者を出すのが必要十分条件となる。現状、1人区で当選を見込まれているのは10人といわれ、残り5議席を上積みできるかが勝負の分かれ目になりそうだ。 「玉木首相」は実現しないだろう。ご本人はなりたがっているが、なってもたぶん何もできないし、玉木氏の政治人生はそこで終わってしまう。自民党本部元事務局長の久米晃氏が時事通信とのインタビュー(26日配信)で「国民民主への票は野党票なんです。自民党に入れたくないという票。与党入りして自公と組むと、次の衆院選でボロ負けして国民民主という政党はなくなります。与党に入ったら野党票は逃げていくんだから」と指摘する。同感である。玉木氏が賢明なる政治家なら、たとえ誘いがあってもそんな選択はしないと思いたい。