政界の夏休みが終わり、高市早苗首相は24日から通常の執務に戻った。2週間の夏休み中、高市氏はXへの投稿を繰り返す。大部分は、取り組んで来た政策の自画自賛である。それを除くと、公邸でゴキブリが足元を走り抜けショックを受けた、と報告しているのが「訳わからなくて」興味深かった。子どもの頃、何度も繰り返し読んだという手塚治虫の『火の鳥』について「いのちは姿を変えながらつながっているという輪廻の考え方が描かれている」と評したうえで「そのせいか、大人になった今でもゴキブリを殺せない」と述べ「この(ゴキブリのこと)命も長い輪廻の中にいるかもしれない」と、禅問答のようなポストをしている。どの層に向けて発信しているのか不明だが、禅宗の高僧しか面白がってくれないのではないか。余談になるが、訳わからぬことを「高尚」だとする仏教の“堕落”は、禅問答で遊んだ禅宗坊主の責任だと考えている一人だ。ゴキブリ人生?問答は脇に置き、今後の政治日程を概観する。8月末には来年度予算の概算要求基準を決定する。9月に入ると、手あかのついた政治用語で恐縮だが「政局の秋」を迎える。与野党一騎打ちになった沖縄県知事選は9月13日に投開票を迎え、結果は高市政治に少なからぬ影響を及ぼす。そのあとに、高市氏にとって初の自前による「内閣改造・党役員人事」を断行しなければならない。10月初めには臨時国会が待ち受けている。食料品の消費税減税関連法案がアジェンダだ。外交では、国連総会(9月)、APEC(11月)、G20(12月)が控える。選挙、人事、国会、外交いずれも、手綱さばきを誤れば、政権の浮沈に直結する。
今回のコラムは、近未来の高市政治を展望してみたい。ワンテーマに絞るのではなく、大皿に山海の幸を盛り合わせる土佐の皿鉢(さわち)料理方式でやってみる。煩瑣になるかもしれないが、ご容赦を。27日告示された沖縄県知事選は、過去最多の6人が立候補した。事実上、玉城デニー氏(現職、66歳)vs古謝玄太氏(前那覇市副市長、42歳)の一騎打ちとなった。争点は、辺野古移設(普天間飛行場)問題と経済政策(県民所得・物価高騰)だろう。県民の関心は「基地問題」から「暮らし」に移行しているようで、玉城氏(立民・共産・社民など「オール沖縄」支援)は辺野古移設に反対姿勢を維持しているものの、今回は「移設反対」を前面に出さずに政策柱から外した。古謝氏(自民・維新・国民・参政・保守・公明推薦)は、移設容認で「県民所得倍増」を掲げ保守勢力が結集した。下地幹郎氏(元郵政民営化担当相)は告示2日前、一転不出馬表明、古謝氏を支援する。立候補取り下げは、鈴木宗男参院議員から持ち掛けられたものだと明かし、子供の貧困対策300億円、辺野古移設工事の36年終了など4項目の合意書を自民党と取り交わしたことを理由に挙げた。序盤情勢は、玉城氏支援する「オール沖縄」が辺野古訴訟敗訴や県議会での少数化、先の衆院選全敗など勢力が縮小気味で守勢なのに対し、古謝氏を推薦する保守勢力が結集しているため互角という。自民党は下地氏ドタキャン効果で12年ぶりの奪還は可能と意気込む。選挙はふたを開けるまで分からない。閣僚・党役員人事発表のタイミングは9月17日前後と予想する。根拠は、24日の国連総会演説や立ち話を含めた首脳外交で帰国は週末の26日以降になる。帰国後の発令では、選任した新閣僚の国会答弁の準備に最低でも1週間は必要なので日程的に困難だ。焦点は、何度か書いてきたが、幹事長ポストと「ポスト高市」候補の処遇、維新の閣内協力の3点だ。事前の人事構想は、自分が首相・総裁になったつもりで勝手に辞令をぶち上げるので百家争鳴になる。頭の「筋トレ」と思って聞いてくれればよろしい。麻生太郎副総裁は、総裁再選を狙う高市氏に煩わしい存在ではあるが、ポイ捨てはできないのでポストを外せない。義弟の鈴木俊一幹事長を更迭させると、政権の命運にもかかわる事態となる。従って幹事長人事は二択しかない。鈴木続投、萩生田光一幹事長代行の昇格のいずれかだ。一時、高市氏の「願望」と言われていた旧安倍派幹部の萩生田氏は今なお「政治とカネ」問題が国民から赦免されていないので、鈴木慰留に回るのではないか。
ポスト高市を狙う茂木敏充外相、林芳正総務相、小泉進次郎防衛相、小林鷹之政調会長は「封じ込め」作戦で、主要閣僚や党幹部で処遇すれば反高市の立場が取りづらい。留任か閣内横滑り(現職3閣僚)や入閣(小林氏)で縛りつけておくことになろう。市場関係者から不評の城内実経済財政担当相と、高市氏が安倍―高市―小林のタイムラインで高く評価する小林氏の「スワップ人事」を推奨する声が霞が関中心にある。高市氏は教条主義的なリフレ派のパトロンである城内氏外しの圧力が市場関係者から強いのを承知している。それでも低い国債利払い費と高い名目経済成長率のギャップによって生じる「インフレボーナス」を、自身の財政拡大の財源に充てたいという誘惑に負けそうに見える。▶︎
▶︎維新からの入閣は、藤田文武共同代表が有力である。馬場伸幸前代表は「総務相」と自己PRしているが、藤田氏を高市氏が信頼しているうえ、吉村洋文代表との関係も良好なので分がある。霞が関のプロ筋では、官房副長官人事が関心事だ。官邸サイドの国対窓口となる官副は、強化のため現在の尾崎正道氏(衆院)に代えて鈴木貴子党広報本部長、佐藤啓氏(参院)が外れて同じ奈良出身の堀井巌外務副大臣を起用するアイデアを耳にする。すでに発令された官僚人事で霞が関の耳目を集めたのは、財務省で10年に1人の逸材と言われ事務次官候補の一松旬・前主計局次長が東京税関長に“左遷”された件である。「政策づくりに協力しなった」「官房副長官に楯突いた」として高市氏の怒りを買ったためと巷間伝えられている。筆者も興味を抱いたので深掘りしてみた。一松氏が高市氏に嫌われたのは事実だが、財務省トップが省の「お宝」を、現政権が当分続きそうなので首相の目の届かないところに避難させた「REFUGEE人事」が実相に近い。世界最大のシンクタンクといわれる霞が関の官僚群は上手に使うのが政治家の器量。過去、排他的に扱って機能した政権は少ない、とだけ言っておく。
臨時国会に移る。召集は10月2日、会期70日間になる見通しだ。高市改造内閣での初国会となる。食料品の消費税減税(8%から1%に下げ、給付金で実質ゼロ%)が最重要法案だが、多少の混乱はあっても成立するだろう。課題は、成立後の市場反応、物価対策効果、2年後の税率戻し。「インサイドライン」(8月10・25日合併号)で解説したので、ダブりを避けるため、そちらをご覧になっていただきたい。外交に目を転じる。今年後半に外交日程が目白押しである。9月24日の国連総会演説、11月18~19日のAPEC首脳会議(中国・深圳)、12月14~15日のG20首脳会議(米国・マイアミ)。中国との関係回復が高市政権のミッションになっているが、台湾有事での高市発言で「しこった」ままだ。習近平主席の対日姿勢はますます厳しく、対話の糸口すら見いだせない。外交イベントにおける日中首脳会談の実現は、日本側が求めても門前払いだろう。
加えて、年末には安全保障関連3文書再改定が控えている。これがまた、中国を怒らせる地雷で「新型軍国主義」の大合唱は国際規模で始まるだろう。そもそも中国の対日批判は22年12月に岸田文雄政権下で秋葉剛男国家安全保障局長を中心にまとめた安保3文書改定がトリガーとなった。高市政権は、韓国の李在明政権との関係強化で当面しのぐしかないか。高市外交のリスクは、消費税減税による財政悪化懸念の市場攻撃(円安・株安・長期金利上昇)と併せ、乗り越えるのが厄介だ。今年後半の「2大ハードル」となるのは必至である。ことほど左様に全てが輪廻転生する現実政治はすでに動き出している。「ゴキブリは殺せない」などと禅問答で悦に入っている場合ではなかろう。だが、最新の日本経済新聞の世論調査(8月28~30日実施)で、内閣支持率が前回比4ポイント増の62%に上昇している。政局見立ては、なかなか微妙である。
