2020年12月 自民党内で「菅・二階連合」への不満噴出

24日のクリスマス・イブ、菅義偉首相は政権発足から100日目を迎えた。この100日間を「ハネムーン期間」と呼び、米国では、メディアが表立った政権批判を手控えるのが習わしだ。だが、日本のマスコミには米国流忖度がない。ハネムーンの終盤を迎えて菅義偉内閣の支持率が急落、永田町を揺るがす事態となっている。朝日新聞社の世論調査(12月19~20日実施)で、支持率39%(前回11月は56%)と17ポイントも落ち込んだ。NHK調査(12月11~13日)では支持率42.4%(前回から14ポイント減)。毎日新聞社の調査(12月12日実施)でも、支持率が前月比17ポイント減の40%となったうえ、不支持率が49%で政権発足後の調査で初めて不支持率が上回った。 
 菅内閣の支持率は発足時に歴代3位の平均70%だった。その後、日本学術会議問題への批判で7~10ポイント下落したものの、いったん回復傾向を示していた。今回調査で軒並み40%前後にまで落ち込み、ハネムーン期間内で約30ポイントも急降下するのは異例な事態である。 
 メディアの中には、菅政権は麻生太郎政権と似ている、と口さがない批判も散見する。ともに発足時は高水準だった内閣支持率が急落。それぞれコロナ禍、リーマン・ショックの影響を受け、就任直後の衆院解散を見送っている。12年前の麻生首相は追い込まれた末の衆院選で大敗し、自民党は野党に転落した。菅首相も同じ轍を踏むことになるか、という不吉な予測の「おまけ」付きだ。支持率急落の主要因は、菅首相主導の「GoTo」事業の継続でコロナ感染が急増、事業の休止に追い込まれるなどコロナ対応の右往左往にある。12月17日までの「極めて重要な3週間」(菅首相)で、東京、大阪など大都市で感染爆発となり、医療崩壊も現実味を帯びている。菅首相は、コロナ感染防止と経済回復の両立を目指してきた。コロナ対応の「ハンマー&ダンス」で言えば、ダンス派だった。「事業を辞めたら経済に甚大な悪影響がある」とダンスを踊り続けた。ところが、冬場を迎えた北海道を皮切りに全国的な感染急拡大が始まった。11月に入ってからは連日、感染者数や重症者・死亡者数が過去最高記録を更新する。国民の不安は募るばかりだった。政府の感染症対策本部分科会の尾身茂会長は菅首相に「今のままでは感染をコントロールできない」とGoTo事業の一時中止などを要望。日本医師会の中川俊男会長も「GoToトラベルがきっかけになったことは間違いない」と政府の対応を批判した。
 事ここに至って、菅首相もダンスからハンマーに舵を切らざるを得なくなった。それにしても、決断が遅すぎる。タイミングを間違えると、政治では失政となり、経済では企業倒産につながる。「こだわり続けた菅首相こそ最大の国難だ」と断じるメディアもあった。GoTo事業は今年4月、コロナ収束後の実施を前提に政府が閣議決定した観光業救済策である。当時官房長官だった菅氏が主導し、感染拡大第2波が始まっていた7月下旬、事業の中核であるGoToトラベルを前倒しでスタートさせた。感染者が増大していた東京都の小池百合子知事は「暖房と冷房を同時にかけるようなもの。よーく考えてほしい」と反発した。カチンと来た(と思われる)菅氏は東京を除外して実施を決めた。夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、菅氏は「賭けに勝った」と周囲に漏らしたという噂話も伝わっている。真偽のほどは定かでない。しかし、この一時的成功体験が後の判断を鈍らせたのかもしれない。▶︎ 

▶︎菅首相は9月16日の政権発足後もGoTo事業を経済回復策の中軸に据えた。紅葉狩りの秋や年末年始の観光シーズンにトラベル、イート両事業を全面展開する考えを繰り返した。「専門家の間でもGoToが主要な要因であるとのエビデンスは存在しないとされる」と方針転換を否定し続けた。だが、冷気が入り込み、空気が乾燥する11月になってから全国的な感染急拡大が始まった。
 鈴木直道北海道知事と吉村洋文大阪府知事の要請で、11月下旬の3連休直前になってようやく札幌市と大阪市をGoTo目的地から除外する部分的な運用見直しをする。東京都については「現場の状況を知る知事が判断すべきだ」とする政府と「そもそも国の事業だから政府が対応を決めるべきだ」と反論する小池知事との間で責任のなすり合いも起きていた。
 専門家の間では、12月17日前後には感染拡大が頂点に達し、東京を含めた一部の運用見直しでは拡大が収まるはずがない、との見方が支配的だった。爆発的感染になれば、年末年始の緊急事態宣言も検討せざるを得ない。森羅万象、何事も自分が決断するのを流儀としている菅首相は苦悩の日々が続いたと推察する。そして、とうとうギブ・アップ。年末28日から年始11日まで全国一斉GoTo停止に踏み切った。12月16日の記者会見で「(感染者)高止まりの状況を真摯に受け止めている」と、まるで「敗軍の将」のようだった。前述の「噂話」を踏まえて言うなら、一転して「賭けに負けた」のである。 
 遅すぎる決断は内閣支持率の急降下となって反映された。師走の永田町は「GoTo政局」で大揺れである。加えて吉川貴盛元農水相が在任中に大手鶏卵生産会社の元幹部から現金を受け取り議員辞職、安倍晋三前首相の「桜」虚偽答弁118回も合わせると、菅政権は年の瀬にトリプルパンチの痛打を食らってしまった。自民党内では今、「菅・二階連合」への不満が凄まじいほど高まっている。菅首相誕生への道筋をつけた二階派が我が世の春を謳歌していることへのやっかみは地表近くまで来たマグマとなって煮えたぎっている感じだ。他派閥の幹部が苦々し気に言う。「党の金すべてが幹事長室に集中している。二階派の連中は、それを俺たちのものだと使いまくっている。勘違いも甚だしい。二階幹事長の外遊も随行はほとんど二階派の連中でまるで物見遊山感覚だ。批判の声が噴出しているのに、親分は馬耳東風を決め込んでいる。二階氏が幹事長を降りれば、派閥は瓦解するのが明白なのに、そんなことにも気づいていない。菅首相も二階氏に恩義を感じているのか、見て見ぬふりで一切注意しない。由々しきことで、いったん事が起きれば大変なことになる」。何とも穏やかならぬ口ぶりだが「事が起きれば」とは何なのか。 
 年末年始の政局展開次第では、菅首相の解散権も縛られ、来年9月の総裁再選による向こう4年の本格政権どころか、任期内の退陣も含む政権危機も現実のものとなりかねないという見方も出だしている。仮に、来秋の総裁選で、清話会(細田派)、志公会(麻生派)、平成研究会(竹下派)が一致団結して「菅・二階連合」に対峙したとしたら、菅再選は覚束ない。「菅・二階連合」は多く見積もっても70人前後しかなく、3派連合勢力には一溜まりもなく蹴散らされる。
 では3派連合は誰を担ぐのか。石破茂元幹事長が脱落し、岸田文雄前政調会長も今や風前のともしびとなり、河野太郎行革担当相はまだ先のこと、安倍前首相の再登板も桜疑惑でブレーキがかかった状況下で、有力な「ポスト菅」候補として茂木敏充外相が頭一つ抜け出した。本人はもちろん野心満々だ。外務省内の茂木評価も日ごと高まるばかりである。
 局長、審議官や課長クラスだけでなく課長補佐クラスとまで食事したり、飲み会に誘う。それだけでなく、職員一人ひとりの職歴から家族構成・環境まで頭に入れている。まるで蔵相時代の故田中角栄氏を見倣っているかのようだ。
 年明け以降もコロナ禍で出口の見えないトンネルは続きそうだ。東京五輪・パラリンピックも開催できるのかどうか。菅首相の敵は新型コロナウイルスだけではない。党内基盤が弱いので、いつ寝首をかかれるかもしれないリスクとも向き合わなければならない。憂鬱な新年を迎えることだろう。