年の瀬恒例の「回顧と展望」でまいりたい。読売新聞オンライン(19日付け)は読者が選んだ今年の国内10大ニュースを発表している。1位は「能登半島で震度7の地震」▽2位「大谷翔平が大リーグで初の50・50」▽3位「パリ五輪で日本が海外最多の金メダル45個」と続く。小欄に関係のある政治・経済マターを探すと、6位に「衆院選で与党過半数割れ」、7位「自民党総裁に石破氏」、12位「円安、34年ぶり1ドル160円台」、13位「日経平均株価がバブル期越え」、17位「自民、派閥の裏金で39人処分」となっている。岸田文雄首相の退陣表明はかろうじて20位に食い込んだ。不人気だった首相の退陣など庶民には「蚊帳の外」なのだろう。今年、我が国の政治的に最大の出来事は、30年ぶりに少数与党となったことである。これから米国型の「2大政党」制を離れ、欧州型「多党制」政治に向かうのか。2024年がその転換点だったのか。考察は筆者の手に負えない。後世の歴史家にお任せしたい。
ただ直感で言うと、戦後長く続いた自民党の「1党支配」政治からは離陸したような気がしている。どんなにあがいても、時間を巻き戻してやり直しは出来ない。「行く川の流れは絶えずして元の水にあらず」である。しがないジャーナリストにすぎない筆者は振り返ることが苦手だ。先を読む(予測する)ことが習い性になっている。回顧はこの程度にして来年の展望に移りたい。2025年の主な政治日程を探してみる。1月20日にトランプ氏が第47代米大統領に就任する。報道によると、就任当日に「WHOから脱退」など300以上の大統領令を発令するという。二度目の登場だが、一期目は「世界の警察官を止める」と宣言した。「アメリカ・ファースト」で国内に閉じこもった。過激な発言をSNSでぶちかまして世論を煽ってから、徐々に軌道修正するトランプ手法はいまだ健在のようだ。オールド・メディアとは距離を置く。「すぐに停戦させる」と言い放ったウクライナ戦争は25年中に終結するのか。就任前のトランプ・石破会談にも「乗り気」のようだが、果たして実現するのか。世界はトランプ流の言動に振り回される1年を迎えそうだ。1月、通常国会が召集される。政府与党は24日開会を軸に調整している。少数与党下で25年度予算案審議が始まる。国民民主は「年収103万円の壁」引き上げ幅と予算案賛否を連動させる。その着地如何で石破茂首相の命運が決まるぞ、と「恫喝」する。衆院で予算案が通らないと、新年度スタートまでに成立しない。空白期間を埋めるため暫定予算編成が必須となる。玉木雄一郎氏(代表停止中)は「(暫定予算での執行は)4月、5月、6月だってあり得る」とジャブを飛ばす。立民、維新、国民3党は学校給食無償化法案を国会に提出した。見込み予算額は4900億円、4月開始を盛り込む。立民と維新はこれまでも共同提出しているが、今回国民が加わった。これとは別に維新は高校の学費無償化を求めている。良く言えば、国会審議は野党提出法案が増えて活性化するだろう。悪く言えば、脅しとディールが幅を利かす政治になるかもしれない。玉木氏は時事通信のインタビューで「与党と協議することに何の恥じらいもない」と断言する。
ところが、国民民主だけ「いいとこ取り」できる構図でもない。維新創設者で弁護士の橋下徹氏は自身のSNSで「維新が本予算に賛成すれば国民の主張は吹っ飛ぶ」とカウンターパンチを浴びせている。維新は衆院選で議席を減らしたが、それでも38議席ある。国民民主より多い。自公は予算案を通すに当たって、国民民主から維新に接近する手段も残されている。どの党も“抜け駆け”を心配する「神経戦」に備えなければならない。立民の野田佳彦代表は「熟議と公開」を掲げている。1950年代後半から国会審議を円滑に進めるためと称して続いてきた「事前審査」は少数与党下で、有名無実化した。政府が準備する法案は、その分野に精通する自民党「族議員」との事前のやり取り(事前審査)で政策づくりを進めてきた歴史がある。議事録に残らない非公式な協議のため「不透明性」が指摘されてきた。今、政府・与党だけで「事前審査」しても何の足しにもならない。その“任務”を与野党協議が取って代わり、政策づくりの「見える化」は進む期待もある。石破政権は野党がこぞってへそを曲げたら「万事休す」なのである。会期末、もし内閣不信任案が可決されると、石破内閣は総辞職か解散を選ばなければならない。25年は「薄氷の上を歩む」政治が待っている。春になって氷が解けたら、水中に沈むかもしれないのだ。▶︎
▶︎石破政権が来年も続くのかどうか。これが最大の政治テーマになる。通常国会会期末に内閣不信任案の可決という修羅場を迎えると、7月に衆参同日選挙の選択肢が浮上する。その前の本予算成立のため「石破首相の首を差し出す」シナリオを唱える永田町ウォッチャーがいるが、筆者はあまりリアリティーを覚えない。野党にとっては「何でも聞いてくれる」「自民党内に基盤のない」弱くて軽い石破首相のままでいてくれた方が選挙も戦い易い。国会運営も思いのままになる。野党の本音は、予算案の採決で「石破の首など差し出してほしくない」と思っている。石破氏は12月中旬の夜、赤坂の議員宿舎食堂で、腹心の赤澤亮正経済財政相と、乾きモノを肴にカップ酒を酌み交わしていたという。その情景を浮かべると美空ひばりの「悲しい酒」が聞こえてきそうだ。
だが、官邸から聞こえてくる風の便りでは、石破氏は最近すこぶる機嫌がいいそうだ。12月22日、プロテスタント長老派のクリスチャンである石破氏はクリスマス礼拝を行っている。心に余裕が出てきた証しなのか。長いこと党内の「傍流」にいて、冷や飯食いの続いていた石破氏がようやく手に入れた「最高権力の座」だ。少数与党下でサンドバッグのように叩かれようとも耐えに耐え、権力の頂点に出来る限り居続けよう。幸いなことに、数で勝る野党も同床異夢で「統一戦線」の構築は無理だ。最近の立民は政党支持率で国民民主の後塵を拝し、野田代表は期待に応えられていない。共産は女性の田村智子委員長に衣替えしても党勢拡大につながっていない。維新は関西の「地域政党」から脱皮出来ない。躍進した国民民主は玉木代表が不倫発覚で表向き公然活動を控えざるを得ない。足元の自民党内は耳を澄ましても「石破降ろし」の声が起きていない。こんな状況下で首相に手を挙げる「剛の者」なぞ出てくるはずがない、と思う。懸案の「壁」見直しは「自・公・国」協議で2月中までに落着すれば、本予算成立の見通しが明るくなる。何でも反対の立民と言われるが、これまでだって実は政府提出法案の7~8割に賛成している。少数与党に何らうろたえることはない。「機嫌のいい」石破氏の心象風景を思い描くと、こんな図柄が見えてくる。4月には、統一地方選(後半戦)がある。都道府県議会や政令都市議会の選挙だ。このうち都議会選挙は7月参院選と同日選になる可能性も否定できない。議会選挙での自公当選者数は石破政権の延命に少なからず影響を与える。大阪・関西万博が4月13日からスタートする。前売りチケット売上は不調らしい。10月13日までの184日間、約160の国・地域が参加する。万博の成功・失敗は日本維新の会の党勢に止まらず、自民・維新の連携にも間接的に関わっている。
翻って、石破氏の描く図柄が壊れた場合も想定しておかねばならない。前述した「石破降ろし」なしと矛盾するが、仮に内閣不信任案が可決して、自民党内に「参院選は石破じゃ戦えない」の声が噴出すると、状況は一変する。石破氏を引きずり下ろし、新しい「選挙の顔」を選ぶ自民党総裁選が参院選前に行われることも「想定内」に入れておかねばならぬ。最近、先の総裁選に立候補したコバホークこと小林鷹之氏と話す機会があった。12月19日に自身が主宰する勉強会を立ち上げ、党内の中堅・若手40人が参加している(代理出席を含む)。本人は「あくまでも政策集団でカネのしがらみは一切なし」と断言するが、清和会を創設した故福田赳夫首相も当初は同じことを言っていた。足場を固め、次期総裁選出馬に意欲満々とみた。側用人と目される鈴木英敬氏(自民党選対副委員長)も一緒だった。細かい内容は割愛するが、コバホークにはリーダーに欠かせない「磁力」があり、鈴木氏は当意即妙な受け答えの技を持っていた。共に将来の自民党を背負って立つ器かもしれない。苦境にある自民だが、着実に世代交代の波は押し寄せているようだ。7月、参院選がある。政権選択選挙でないぶん、与党にお灸を据えやすい。玉木氏は12月の共同通信加盟社論説研究会で講演し「これからは野党も与党も過半数を取れなくなる」と予想している。仮にこの見通しが当たっているならば、自公は負け、衆参の「ねじれ」が解消に向かう。
それでも、石破政権が粘り腰を発揮して存続できるのかどうか。来年の見どころとなる。最後になったが、来年の経済にも簡単に触れておきたい。双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦氏の見立ては「実質賃金を増やせるかどうか」が最大の課題という。「脱デフレ」のために歓迎された円安は「実質賃金の向上」には逆効果になっている。手取りが伸びる経済を目指すべきだと説く。まずは春闘を注視したい。それでは皆様、良いお年をお迎えください。