自民党総裁選は10月4日、投開票される。告示後、すべった、転んだ、と政治報道の8割を占めている。やや食傷気味だが、やむを得ない。我が国は、比較第1党と第2党で、数も力量も差がありすぎる。多党化時代を迎え、衆参とも与党は過半数に満たないのに、多数の野党が団結しない。臨時国会での首相を決める選挙で、新総裁が国のトップリーダーに選ばれるのは確定的である。過剰報道も飲み込むことにする。届け出順に、小林鷹之元経済安保担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保担当相、小泉進次郎農水相が立候補している。独断と偏見で寸評したい。コバホークこと小林氏は、開成高校、東大、財務省、衆院5回生と絵に描いたようなエリートコースを歩んできた。長身のイケメン。政策能力があり、考え方は党内でも右寄りに位置する。如何せん、国民的知名度が低い。次を狙うため「顔を売るしかない」と、出ることに価値がある“大義名分”で2度目の出馬に及んだ。石破茂首相は5回目の挑戦で成就。コバホークも「トライ&エラー」精神で自分を鼓舞し続けるしかない。茂木氏が新総裁に選ばれるとは、本人を含め誰も予想していない。頭が異常に良すぎたせいか、持って生まれた「上から目線」で、国民からも議員からも官僚からも人気がない。「要職から解放された1年間で“怖い人”に見られないように変身に努めてきた」と言っているが、人間、69歳にもなって性格改造ができるのか。トランプ米大統領と太刀打ちできるのは俺だけ、と内心思っているところが顔に出る。決戦投票では勝ち馬に乗っかり、外相や財務相の重要ポストを狙っている、というのが外野席の見方だ。林氏は、そつがない。何を任せても平均点以上は取る。惜しむらくは「華」がない。先行する小泉氏、高市氏を猛追している、という報道もあるが、「解党的出直し」に、はまる人材というより、急場しのぎのリスクマネジメントに優れている。党内キングメーカーを任ずる麻生太郎最高顧問、岸田文雄前首相は「林政権阻止」で一致する、との見方がある。麻生氏は、林氏を推す古賀誠元宏池会会長(元幹事長)と地元・福岡で犬猿の仲。坊主にくけりゃ袈裟まで憎い、というわけだ。「不完全燃焼で、まだちっとも枯れていない」(永田町ウォッチャー)という岸田氏は、林総裁になると旧派閥(岸田派)が「林派」へ移行するのが許せない。「出る杭」は叩かれる、というわけだ。永田町での渡世、義侠心で通すのもなかなか厄介なものがある。紅一点、高市氏は「奈良の女」である。出馬会見で、抑揚をつけて大伴家持の和歌「高円(たかまど)の 秋野の上の 朝霧に 妻呼ぶ雄鹿 出で立つらむか」を朗詠した。「そんな奈良のシカを足でけり上げる、とんでもない人(外国人)がいる」と、勢い余って外国人の振る舞いに憤ってみせた。奈良公園の管理者は「そんな事例は報告されていない」と言う。高市氏は「自分なりに確認した」。ここは奈良のシカを持ち出すより、家持の和歌になぞって、現在自宅で夫を介護中である自分をフレームアップ、国家の一大事のため身を投げ出す論法にした方が喝采を受けたかもしれない。介護と議員活動の両立は並大抵でない。「頑張って」の声が湧くだろう。党員・党友を対象にした直近の日テレ調査は、高市氏34%で1位となり、前回トップの小泉氏(28%)を上回った。
ただ、1回目の投票で勝ち残っても、決選投票で勝ち切るのが厳しい。時事通信が25日までにまとめた所属議員への聞き取り調査によると、トップが小泉氏の2割強、2位林氏2割弱、高市氏は1割強と苦戦している。高市氏への支持は旧安倍派が半数を占め、その他も保守系議員がほとんどだという。「超保守」の色が濃すぎて、小林氏を支持するグループも決戦投票で高市支持には回らないとみられる。「ガラスの天井」に手が届きそうになりながら、突き破ることができない。「源氏物語」の六条御息所のような「悲運の女」だ。
小泉氏は「He is not what he was」(彼は昔の彼ならず)である。「政治はポエムだ」と理解不能なことを言っていたヤワな昔とは見違えるように変身した。この1年で猛勉強したのだろう。討論会で、はぐらかしやカンペに頼る肩すかし技が少なくなった。「4世のお坊ちゃん」から経験・精神力とも備わった壮年政治家へと成長しつつある。もともと弁舌は爽やかで、発信力は備えていた。磁力もある。これに中身が伴えば鬼に金棒なのだが…。討論会で、パレスチナ国家承認の是非を問われ「しっかりブリーフを受けたうえで総合的判断が必要だ」と答えた。図らずも役人任せの本性を露呈する。まだ論戦力は頼りないものの、支える小泉選対のメンツが凄い。自民党の頭脳をごっそり集めた感がある。選対本部長は菅義偉元首相が推した加藤勝信財務相。財務省との協調路線や党内融和を重視する戦略を反映したものとも言える。ただ、世論が期待する「小泉らしさ」を極力抑え込む振り付けは諸刃の剣といえる。政策を担当する「チーム小泉」のキャップは岸田前首相の懐刀だった木原誠二党選対委員長。脇を、村井英樹前官房副長官(元財務官僚)、小林史明環境副大臣(元NTTドコモ)、西野太亮内閣府政務官(元財務官僚)らが固める。他に、神奈川出身のよしみで河野太郎元外相や党内切っての政策通、齋藤健前経産相が陣営に加わる。22日の出陣式には、党所属議員295人の3分の1近い92人(代理出席を含む)が「エイ・エイ・オー」とこぶしを突き上げた。失言・食言がなければ、そのままゴールを駆け抜ける、とみられていた。
ところが、好事魔多し、高転びは世の常である。陣営の「総務・広報」を担当する牧島かれん氏(神奈川選出)の事務所が「ニコニコ動画でポジティブなコメントを書いてほしい」とステマ(ステルス・マーケティングの合成語。こっそり宣伝の意)を指示していた。コメント例として「泥臭い仕事もこなして一皮むけたね」など24文例を羅列。文春砲がすっぱ抜いた。陣営は事実を認め、陳謝する。SNSでは「総裁選辞退」がトレンド入りしたが、メディアはさほど大騒ぎせず「致命傷」にはなっていない。 という手前勝手な情勢分析から、筆者が予想する第1回投票は、小泉氏と高市氏のどちらかが1位、2位となる。でも、共に過半数を制することはできない。ひょっとすると小泉・林の組み合わせもあり得るが、確率は下がる。上位2人による選投票はかなりの差で小泉氏が新総裁に選ばれるだろう。勝利を確信する小泉陣営や気の早い永田町スズメは、小泉新政権の主要閣僚・党役員人事に思いを巡らせる。本稿も早漏を承知で便乗する。仮に林氏が決選投票に残ると、副総理格外相の声が挙がっている。林氏が残らないなら、党内融和を優先させると「茂木外相」が浮上する。そうなれば、後見人の麻生氏は喜ぶ。党の危機時には分断を助長する人事より協調優先なので配置構想は千々に乱れる。小泉官邸を仕切る官房長官は大方の関心事だ。常識的には、小泉選対の司令塔を務めた木原氏の起用である。小泉首相を何から何まで演出すると見込まれるので、いずれ「影の総理」と呼ばれる恐れもある。
ここに来て、齋藤健官房長官説が急浮上している。その場合、木原氏は幹事長代行か政調会長に回るだろう。幹事長の本命は、小泉選対本部長の加藤勝信氏であり、麻生氏取り込みのため同氏義弟の鈴木俊一総務会長起用もある。若手のホープ、コバホークを防衛相で閣内に取り込めば「ドリームチーム」ができる。外で寝首をかく者が見当たらず、長期政権も夢ではなくなる。小泉政権では、与党の一翼に日本維新の会を組み入れるためにあらゆる手段を使うだろう。小泉氏の後見人、菅義偉副総裁は維新とのパイプがある。維新の悲願「大阪副首都」を実現させるため、新たに副首都構想担当相を創設して、松井一郎元代表(元大阪市長)を迎え入れる超ド級の「お土産」まで用意されているやに聞く。維新は衆院で35議席持っている。連立政権入りすれば石破政権より国会運営はぐっと楽になる。霞が関の住人や政治のプロ向きには、長期政権へのカギを握るステルス・ポスト、首相政務秘書官が誰になるかが気になるところだ。小泉氏は大物官僚ОBに打診するはずである。その名前も聞き及んでいるが、事前に名前を記すと潰されるのが政界の掟。「知っていて、書かないのか」とお叱りを受けそうだが、平にご容赦願いたい。はてさて、戦後最年少、44歳の首相は10月第3週には本当に実現する!!