年の瀬は恒例の我流「回顧と展望」で締めくくりたい。まずは2025年を振り返る。憲政史上初の女性首相、高市早苗首相が誕生した。とうとうガラスの天井を破り、我が国政治史で大きな転換点となった。高い内閣支持率でロケットスタート、以後も「高止まり」している。高市氏の“勇猛果敢”な保守派路線は26年間にわたった公明党との連立を解消させた。
代わって日本維新の会をパートナーに迎える。維新との合意まで慌ただしい1週間を仕切り、国民民主が求める「年収の壁」引き上げにも自ら断を下した。流行語大賞になった「働いて×5」で何から何まで切り盛りする日々である。高市政治は①防衛費倍増の前倒し②非核三原則(持たず・作らず・持ち込ませず)見直しを自民党総裁選や著書で明言、特に「持ち込ませず」を「持ち込ます」へ。国会での質問には「申し上げる段階でない」と答弁を拒否。③「半導体・AI」や「こども未来戦略」の予算拡充④「年収の壁」引き上げなどが特筆される。外交では、トランプ米大統領の関税措置の影響を見極める1年となった。対中関係は悪化する。「台湾有事」に集団的自衛権を行使できると発言、これまでにない緊張状態にある。強硬保守政治家の“面目躍如”と言うのか、タカ派の確信犯的パフォーマンスを随所でちらつかせた。戦後日本の国家戦略である「軽武装・経済重視・対米依存」の吉田ドクトリンは風前の灯である。来る年は安全保障と対中経済協力で難しいかじ取りが待っている。筆者は高市氏を、源頼朝亡き後「尼将軍」として権勢を誇った鎌倉時代の北条政子再来に例えたことがある。「疾風怒濤のハレーション」(国民の半分は拍手喝采)が起きるたび、自作自演の言動にずっこけ続けた。「助けてくれ~」と叫びたくなる。
ともあれ、良いことも悪いことも全部一人で背負いこみ、前政権とは真逆の「官邸主導」を“復活”させた。余談になる。森山裕前自民党幹事長は「影の首相」と称された。石破茂前首相は国会対策、他党との交渉、すべて森山氏に丸投げした。翻って今の鈴木俊一幹事長はほとんどマスコミに露出することがない(他党と合意の記念撮影にだけ出てくる)。父親は首相になった時「〇○の帝王」と陰口をたたかれた。親子は風体だけでなく性格もよく似た。まるで、床の間を背にじっと座っているだけが仕事と心得ているかのようだ。となると、高市氏が「働いて×5」しのぐしかない。以前よりお痩せになっているようだが体調のほどは大丈夫なのか。政治は多党化時代を迎えている。1党が突出して国会で過半数を得ることは難しくなった。少数与党政権が「当たり前」になり、政権運営は薄氷の上を歩くように慎重にならざるを得ない。予算や重要法案を通すため、与党が野党の言い分を聞く。民主政治は数なり、を強く実感した年だった。野党が選挙で公約した政策を実現させるためのハードルは下がったが、与党が何でもかんでも受け入れていると、高市氏の「責任ある積極財政」は「放漫財政」に陥る。今年の経済を急ぎ足で振り返る。指標だけ見れば「底堅い」とも言えるが「生活が楽になった」という実感には程遠い。経済指標は①日経平均株価が史上最高値を更新(5万円の大台に乗る)②企業収益は堅調、特に半導体・AI関連投資は前年比2桁増③完全失業率2.5%前後の低水準④春闘賃上げ率5%台。だが、家計の実感は同じベクトルへ向いていなかった。消費者物価指数(CPI)は前年比+2%台後半で推移、賃上げ効果が物価上昇に追いつけなかった。とりわけ、若者層の「貧困感」は拭いがたい。金融政策では日銀が政策金利を引き上げ、長い超低金利時代に見切りをつけた。庶民には、住宅ローン金利の上昇がジワリと影響してくる。「今年の漢字」は熊である。熊が人を襲う事例(21都道府県で230人)が相次ぎ社会問題となった。駆除数は9765頭で過去最多。人と熊の生活圏を隔ててきた「里山」が人口減で荒廃したことも影響しているらしい。子どもの遊び声がしないので、熊が「俺の縄張り」と勘違いして越境する。明るい話題では、米大リーグの大谷翔平(ナショナルリーグМVP)と山本由伸(ワールドシリーズМVP)の活躍に溜飲が下がった。▶︎
▶︎来年の「展望」に移る。26年の干支は丙午(ひのえ・うま)である。前回の丙午(1966年)は出生数が前年より46万人(マイナス25%強)も激減した。江戸初期に「丙午生まれの女性は気性が激しい」「嫁ぐと夫を不幸にする」という俗信が広まり、現代にまで引き継がれている。干支の本家、中国にはない日本特有の迷信だ。「八百屋お七」など江戸期の文学・浄瑠璃が迷信を促進させたとされる。恐らく、来年も似た現象が起き、少子時代に拍車をかけるだろう。ちなみに、今年の出生数は66万人強で前年より2万人減。イーロン・マスク氏の予測ではないが、日本は「消滅」に向かっているのか。国内政治では、国政選挙の予定がない年である。ハネムーン期間をとっくに過ぎても高止まっている内閣支持率は来たる年にどうなるのか。引き続き高支持率が続くなら「いっちょう、解散でもぶちかましたろか」という気になるのは人情である。自民党内の血気にはやる選挙好きが早くもアドバルーンを上げているが、選挙より仕事が大好きな高市氏は果たしてどう出るか。
一方、何かやってくれそうな期待感を抱かせながら、結局何もやらないと支持率は下がる。一向に収束の気配を見せない物価高は家計を痛め続けている。世論の高市支持が反高市へと移る可能性は否定できない。支持率の行方が気になる1年になりそうだ。故竹下登首相の「竹下カレンダー」の例を引くまでもなく、政治は日程なり、の面がある。26年のざっくりした主要日程を記す。『1月』李在明韓国大統領来日、通常国会召集、トランプ米大統領が次期FRB議長を公表、米一般教書演説『2月』ミラノ・コルティナ冬季五輪『3月』WBC開幕、高市氏が訪米?春闘集中回答日、26年度予算成立、中国の全人代開会『4月』トランプ氏が訪中『5月』特になし『6月』国会会期末、G7サミット(仏エビアン)『7月』国家情報局を創設『8月』『9月』特になし『10月』臨時国会召集『11月』米中間選挙、APEC首脳会議(中国・深圳)『12月』27年度予算閣議決定、G20首脳会議(米マイアミ)、といったところか。国内政治では、高市政権が経済再生、財政健全化、安全保障強化の3本柱をいかに調和させるかが焦点だ。政策課題としては①物価対策②対中関係の改善③衆院議員定数削減④国家情報局の創設⑤皇室典範の改正⑥副首都設置法などが浮かぶ。解散・総選挙はない、と思っている。理由は、仮に衆院選で自民が大勝しても参院の少数与党に変わりない。次の参院選は28年夏までない。下手にスケベ心を起こして、多少とも高市退場リスクのある総選挙に打って出るより、そのままジッとしていたら政権は続くので今のままで十分。仕事師・高市ならそちらを選択すると手前勝手に思う。米経済誌『フォーブス』は「世界でもっともパワフルな女性100人」の3位に高市氏を選んだ。向かうところ敵なしの勢いである。自民党内の反高市派もほとんど牙を抜かれた状態だ。後ろから鉄砲を撃って、せいぜい「存在感」を示しているのは石破茂前首相ぐらい。睡眠時間の少なさを除けば、気持ちは高揚しっ放し、トランプ氏の前で跳ねたように片手を上げて一回り、世論の応援団を背にこのままずっと踊っていたい心境だろう。
経済では「生活が上向いた」と実感できる実質所得の改善がポイントとなる。▽春闘の賃上げ率が5%台になるか▽最低賃金は全国平均で1100円台に乗せるか▽消費者物価指数は+1%台後半に鈍化するか▽首相の持論である給付付き定額減税を実現できるか、これらの要因が複合して重なれば、家計の可処分所得は前年より増える。だが、国外リスクは依然大きい。米国の通商政策、中国経済の減速、地政学的緊張、どれもが日本の輸出・投資に影を落とす。洋上の波高く、風強い。「高市丸の興廃この1年にあり」とまで言わないが、厳しい環境下でも着実に前へ進まなければならない。最後に、高市氏より先にガラスの天井を突き破ったイタリアのメローニ首相の25年クリスマス挨拶を紹介しておきたい。「2025年はひどい年だった。だが、心配するのはまだ早い。来年はもっとひどくなるのだから」。
