高市バブルがはじけたのか。直近の主要メディアの世論調査は、内閣支持率が軒並み急落した。下落幅は各社でまだら模様だが、これまで支持率60%台を維持していたメディアは10ポイント以上も下がっている。全体として5割前後に収まり、高市政権発足以来最低水準となった。政権にとって深刻なのは、この下落が一過性の現象ではなく、構造的な要因に基づいていることにある。自民党内にも「フェーズが変わった」という声があり、短期の反転は難しいとみられる。今回のコラムは、高市早苗内閣の支持率急落をテーマに筆を進めてみたい。
まず、何はともあれ、各メディアの7月下旬の支持率の数字を列挙すれば、一目瞭然である(カッコ内は前回比の下落ポイント)。 ・読売新聞 57%(-12) ・日経・テレ東 58%(-10) ・朝日新聞 53%(-7) ・毎日新聞 41%(-10) ・産経・FNN 61.6%(-3.7) ・共同通信 53.7%(-2.1) ・時事通信 49.0%(-5.3) ・テレ朝 49.2%(-10.9)
政権に厳しい「毎日」と保守色の濃い「産経」の調査は、針の振幅が激しい傾向にある。毎日は、不支持率が9ポイント増の44%で、支持・不支持が逆転した。産経FNN調査は、政権発足直後に75.4%を記録、以降も高い水準を保持してきたが、3カ月連続で下落となっている。同社の記事では「経済対策や国会運営などを巡り『支持離れ』が徐々に起きている」と、珍しく色眼鏡無しで分析している。高市氏は27日の閉会中衆院予算委集中審議で、下落要因について「私自身が分析することは困難。原因は分かりません」と答えた。仮に、この言葉が本心から出ているなら、全く国民に目を向けていないことになる。こういう言語センスは自己陶酔型の人間に見られる。27日の記者会見でも「(国会の)反省点はない。がむしゃらに政権公約を一つでも多く実現しようと頑張ってきた」と胸を張る。自分に酔いしれる権力者は恐ろしい。習い性で、片手を斜めに突き出す男に思いを馳せてしまう。自分を客観視できないならば、首相になり替わって不肖・筆者が下落要因を指摘することにしたい。 微視的に捉えると、皇室典範改正を巡る皇位継承の議論が不可解かつ生煮えで極めて不評だった。「読売」調査では、皇室典範改正など重要法案で首相が国民に十分に説明していると思うかについて「思わない」62%で、「思う」29%を大幅に上回った。日経・テレ東調査では「女性天皇を認めるべき」は8割を超えた。皇室典範改正は、高市氏、麻生太郎副総裁ら保守派議員の「男系男子」による「万世一系」の皇統論に引きずられて国民意識との乖離が際立った。「なぜ、皇位が女系女子ではだめなのか」に答えられる人は皆無である。ちなみに、産経新聞は典範改正が成立した翌日朝刊1面の社説で「国の始まりから現代まで途切れることなく続く皇統を、これからもお守りしていく内容だ。成立には極めて大きな歴史的意義がある。高く評価したい」と謳いあげ、女性・女系天皇論には「今の世代の思い付き」にすぎないとの論旨を展開した。
筆者は論評以前に言葉を失ったとだけ告白しておく。「世紀の大誤算」とも言われる典範改正は、調査のタイミングと重なったため「微視的要因」と言ってみたものの「巨視的」にも高市政権に重くのしかかるかもしれない。「日本史上初の女性首相」のブランド力は高い支持率の源だったが、女性天皇を望む声はそれを破壊する力を秘めていた。「愛子天皇」を求めるうねりを過小評価するとしっぺ返しが待っていそうだ。強い保守主義者ではあるが、リアリストとも称される高市氏が「自在な変身」を遂げなければ、今後も支持率の下落要因として政権の足を引っ張ることになりそうだ。二番目には、物価高への不満と対策の遅れが挙げられる。本当に豊かになるべきは、一人ひとりの骨太の暮らしなのに、大企業の資産が増えれば「強い経済」と言い募る姿勢に「何か違うのではないか」と国民が思い始めた。衆院選の公約として掲げた「食料品の消費減税0%」の呪縛から逃れられない。読売調査では、物価高対策を「評価しない」は71%に上った。消費税は社会保障費の財源となる「基幹税」である。足りなくなった分は、代替する財源が必要だが、代わりの原資捻出に行き詰っている。27日の社会保障国民会議の実務者会議取りまとめは、小野寺五典議長(自民党税制調査会長)案と、反対する野党の主張を併記し「意見の一致には至らなかった」。財源については、補助金や法人税を軽減する租税特別措置見直し、追加的な税外収入などを例示し「赤字国債に頼らず、結論を得る」としている。高市氏は当初来通り法案化作業へ見切り発車した。即ち、食料品の消費税率を来年4月から2年間限定で1%に引き下げると言明した。8月上旬には閣議決定し、9月に税制大綱をまとめ、秋の臨時国会で成立する構えだ。▶︎
▶︎三番目の要因は、独善的な国会運営への反発である。「野党が採決に応じないなら、会期を65日でも70日でも再延期すればいい」。複数の関係者は、高市氏が憲法に定める「60日ルール」を使うことを真剣に検討した、という。自民内にも「禍根を残す」と諫める声があった。高市氏は「憲法が認めた権利なのに、なんでダメなん」とあっけらかんと返したそうだ。政府高官から「野党だけでなく、参院自民も敵に回す。総理自身が大変な目に遭う」と説得され、矛を収めたという。そのくせ、高市氏の「国会嫌い」は、かねてから周知だ。自身は「求めがあれば、出席して答弁する」と繰り返すが、誰も額面通りには受け取らない。数字が実証している。高市氏が衆参予算委の集中審議に出席した時間は、近年の歴代首相と比べ大幅に減少した。菅義偉氏は50時間、岸田文雄氏50~70時間、石破茂氏90時間台であるのに対し、高市氏は閉会中審査を含め30時間台にとどまる。立民の蓮舫氏は「審議の遅れは首相が国会に来たくないことに起因している」と断じ、自民幹部も「国会に来ないのは首相のわがまま」とあきれる。四番目の要因は、若年層・無党派層・主婦層の「高市離反」が顕著になっている点だ。日経・テレ東調査では、無党派層の「不支持」が5割超となった。大手メディアではないが継続的に世論調査を実施しているJX通信社によると、政権発足直後の調査では「強く支持する」層は20~30代で50%を超えていたが、直近の7月調査は20~30代の「支持」は20%まで激減している。理由は、足元の物価高やインフレの進行で賃金の上昇が追い付けず、手取りが増えたという実感が乏しいこと、加えて物価高対策よりも何か違うことを優先しているのではないかとの「期待感の喪失」と分析している。現に、SNSの「若い世代は自分の生活で成果を実感できなければあっという間に心変わりします。物価高対策最優先と思い、その強い言葉を信じて自民党に投票したのに、気が付いたら皇室典範改正とか副首都構想とか自分たちの生活には直接関係のない政策を最優先されれば失望しますよ」という投稿に象徴される。高市氏への支持理由も変質している。「政策への期待」が減少し「他の内閣より良さそう」という消極支持が最多になった。「朝日」と大阪大学の共同ネット意識調査によると、自民が総選挙圧勝した2月調査と比べ、首相に好感を持つ人の割合は9ポイント減り、半分を切った。保守色の強い政党を支持する人や専業主婦の30~40代の落ち込みが大きかったという(29日付同紙)。
以上僭越ながら、支持率急落の要因について高市氏が「分からん」という中身を代弁した次第である。ただ、唯我独尊で自己陶酔している人には、いくら言っても馬耳東風かもしれない。本人は「睡眠時間を削ってまで頑張っているのに、なぜみんなはこの努力をわかってくれないのか」という趣旨の投稿をX上に載せて逆襲している。7月に入ってからの土日は「書類の山と格闘」「数千通も溜まってしまったメールの処理」などで「半端ない情熱を注いでいた」と強調。「0時間から3時間睡眠が常態化」し「久々に5時間も睡眠がとれた」と小躍りする。「ハンカチやインナーのアイロンかけ」「お裁縫」など主婦としての仕事も手抜きしていてないことで共感を得ようとする。
ところが、これが意に反して「大悪手」だった。22日昼現在のインプレッション数は3000万件を超えているが、ぶら下がるリプライのほとんどは「国会に出たくない言い訳だ」など批判や皮肉が多い。高市氏が尊敬するサッチャー英元首相は「睡眠4時間」を公言していたが、このX投稿はそれを意識したものであろう。ただ、常識で考えても睡眠0~3時間の国のトップリーダーはほぼ酩酊状態でまともな判断を下せるはずがないし、健康不安も倍加する。国家の危機管理上重大なリスク、と危惧を抱いた国民は多い。高市氏は「間違ったサインを出す野球監督」である。バントで走者を送るべきところを「打て」のサインで強行策を採る。併殺プレーに引っ掛かり、チャンスをつぶす。悪いのは、サインを出した監督ではなく、ヒットを打てなかった打者だ、と言い張る。こんな独りよがりな監督の率いるチームは勝ち続けるはずがない。早くも「終わりの始まり」がやってきたとの指摘が浮上している。
